Streptococcus pluranimalium同定用PCR法

要約

多くの動物種で多様な感染症を引き起こし、特に牛の流産・異常産の原因として注目されるレンサ球菌Streptococcus pluranimaliumを同定するための世界初となるPCR法を開発した。本PCR法により、生化学性状検査では同定できない本菌の迅速で正確な同定が一般の検査施設でも可能になる。

  • キーワード : Streptococcus pluranimalium、牛の流産・異常産、同定用PCR
  • 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・細菌グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

Streptococcus pluranimaliumは、1999年に新種として提唱されたレンサ球菌属に属するグラム陽性菌である。種名の「pluranimalium(多くの動物に由来する)」が示すように、本菌は牛の乳房炎や敗血症、馬の髄膜脳炎、キジの角結膜炎、ブロイラーの心内膜炎など、多様な動物種で様々な感染症を引き起こすことが知られている。特に近年では牛の流産や異常産に関連する菌として注目されているほか、人で脳膿瘍、肺炎、敗血症、硬膜下膿瘍、心内膜炎などを引き起こすことが報告されている。しかし、本菌は家畜保健衛生所等の一般的な検査施設で汎用されている生化学性状に基づく市販の簡易同定キットでは同定できないため、家畜衛生および公衆衛生における重要性が正しく理解されていない。S. pluranimaliumは16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定することで他のレンサ球菌種と明確に区別できるが、この方法は迅速・安価とは言い難く、一般的な検査施設で容易に実施できない。本菌感染症の正確な診断と詳細な理解のためには、一般的な検査室でも実施しやすい同定法の普及が望まれる。そこで本研究では、生化学性状検査では同定できないS. pluranimaliumを正確かつ迅速に同定するためのPCR法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本成果であるS. pluranimalium同定用PCR法は、近縁のレンサ球菌との塩基配列の違いを利用してS. pluranimaliumrecN遺伝子だけを検出するように設計されている。
  • 本法で使用するPCRプライマーセット(表1)は、本研究で供試した全てのS. pluranimalium株のrecN遺伝子を特異的に増幅できるが、医学・獣医学領域で遭遇する可能性のある他の菌種からは標的遺伝子を増幅することはなく(図1)、特異性は極めて高い。また、S. pluranimaliumに由来する鋳型DNAが1反応あたり10 pg含まれていれば、本菌の同定が可能であり、検査室における分離菌の同定にも問題のない感度を持つ(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 牛の流産・異常産の症例からレンサ球菌様の菌が分離された場合は、市販の簡易同定キットでの同定結果にかかわらず、本PCR法でS. pluranimaliumである可能性を検証することを推奨する。
  • 検査に必要なプライマーの配列情報や反応条件は、都道府県を対象とした「令和5年度の家畜衛生研修会(病性鑑定:細菌部門)」で紹介済み。

具体的データ

表1 Streptococcus pluranimalium 同定用PCRプライマー,図1  Streptococcus pluranimalium 同定用PCR法の特異性,図2  Streptococcus pluranimalium 同定用PCR法の検出感度

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2022-2023年度
  • 研究担当者 : 髙松大輔、北村夕子(岐阜県)、草嶋悠介(栃木県)、岡本真理子、上野勇一、馬田貴史、大倉正稔
  • 発表論文等 : Kitamura Y. et al. (2023) J. Microbiol. Method 211:106766