要約
日本の養豚場汚水処理(活性汚泥法など好気処理)施設13ヶ所で抗菌剤の残留を調査し、その除去挙動や環境放出リスクを初めて包括的に評価する。これまで情報が断片的だった国内養豚場からの抗菌剤排出などを蓄積した本知見は、ワンヘルスに基づく薬剤耐性問題への対策に活用できる。
- キーワード : 養豚場、汚水処理(排水処理)、抗菌剤、薬剤耐性、ワンヘルス
- 担当 : 動物衛生研究部門・衛生管理研究領域・衛生管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ワンヘルスアプローチによる薬剤耐性問題への対策を考える場合、抗菌剤の使用量などから特に豚の排せつ物の適正処理が求められている。また、豚は他の畜種に比べて尿の排せつ量が多いため、汚水処理が重要となる。国内養豚場の汚水は主に浄化処理されるが、処理過程での抗菌剤の残留や除去挙動、環境排出リスクなどの実態が明らかにされておらず、薬剤耐性問題への対策を考える上で隘路となっている。
そこで、本研究では関東及び中部地方の養豚場汚水処理(活性汚泥法など好気処理)施設13ヶ所で抗菌剤(動物医薬品として販売実績のある8系統20物質)の残留実態を調査することにより、その除去挙動や環境排出のリスクを評価する。
成果の内容・特徴
- 豚に投与された抗菌剤が処理前の汚水には<10-1~104 μg/Lの濃度範囲で残留する(図1)。
- 汚水中の抗菌剤濃度は処理により減少しており、概ね80%が除去される(図1)。しかし、水温や活性汚泥濃度などの処理施設の運転条件の影響により、抗菌剤の除去率が悪化する事例もある。
- 汚水処理後の放流水経由で環境に排出される抗菌剤のリスクを細菌の薬剤耐性化及びラン藻類や小型甲殻類などへの毒性という観点から評価すると、多くの養豚場ではリスクが低いと推定される。しかしながら、主に抗菌剤使用量の多い農場では高リスクと判断され、環境排出低減に向けた対策が必要と考えられる(図2)。
- 一部の抗菌剤の系統(例えば、テトラサイクリン系)では、使用を中止後も放流水中の濃度の低減が遅く、環境排出が長期化する可能性がある(図3)。
成果の活用面・留意点
- これらの知見は浄化処理(活性汚泥法など好気処理)を行う施設で得られたものであり、液肥化やメタン発酵などの処理施設には適用できない可能性がある。
- 養豚場の汚水浄化処理は、施設により構造(処理方法)や運転条件が大きく異なるため、上記の知見が当てはまらないケースがあると思われる。本成果を入り口として、詳細な調査が必要である。
具体的データ

その他