日本の豚ぷん堆肥における抗菌剤残留の特徴

要約

国内の養豚場の12施設から採取した堆肥中の抗菌剤の残留実態を調査し、その除去動態、堆肥化手法や使用量との関係性を明らかにした研究である。これまで情報が少ない国内の養豚場からの抗菌剤排出に関した蓄積した本知見は、ワンヘルスアプローチでの薬剤耐性問題への対策に活用できる。

  • キーワード : 養豚場、堆肥、抗菌剤、薬剤耐性、ワンヘルス
  • 担当 : 動物衛生研究部門・衛生管理研究領域・衛生管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ワンヘルスアプローチでの薬剤耐性問題への対策を考える場合、抗菌剤の使用量などから特に豚の排せつ物の適正処理が求められている。養豚場での排せつ物処理は、汚水処理と並んで堆肥化が重要な位置を占めており、包括的に薬剤耐性問題への対策を考える上では、堆肥中の抗菌剤の残留に農場での抗菌剤使用量や豚ぷん処理手法がどのように影響するかについても明らかにする必要がある。
そこで、本研究では関東及び中部地方の養豚場の堆肥化施設12施設で、抗菌剤(動物医薬品や飼料添加物として販売実績のある8系統19物質)の残留実態を各施設で複数回調査することにより、抗菌剤の使用量や堆肥化方法が堆肥中の抗菌剤残留に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 抗菌剤は、国内の豚ぷん堆肥に<101~105μg/kg(乾物当り)の濃度範囲で残留している(図1)。モランテルはすべての豚ぷん堆肥から検出される。また、スルファメトキサゾールは豚排せつ物の固液分離の際に汚水に分配されるため、残留濃度・検出頻度とも低い。
  • フルオロキノロン系の堆肥中残留濃度は、購入量(使用量)に依存する(図2)。しかしながら、他の抗菌剤の系統では、使用量との関連性が低い。
  • 堆肥中残留濃度と使用量との関連性が抗菌剤の系統で異なるのは、堆肥化過程での抗菌剤の除去挙動の違いが影響している(図3)。全体的に密閉型(コンポスター)の施設で処理した場合、開放型(堆積型や機械式撹拌型)に比べ、堆肥化過程での抗菌剤の除去率が低く、施設間のばらつきも大きい。また、抗菌剤の系統による除去率の違いがみられ、開放型の施設で処理した場合、テトラサイクリン系やリンコマイシン、トリメトプリムは比較的容易に除去されるが、フルオロキノロン系とモランテルは除去されにくい。
  • オキシテトラサイクリン(OTC)の使用を中止した農場の開放型堆肥化施設では、堆肥原料中の残留濃度は急激に減少する(図4)。一方、堆肥化過程での除去により、OTC使用中でも堆肥中の残留濃度は堆肥原料中に比べて極めて低い。しかし、堆肥化に要する期間が長くタイムラグが生じるため、使用中止4か月後まで豚ぷん堆肥からOTCが使用中と同じレベルで検出される。

成果の活用面・留意点

  • これらの知見は実際の処理施設での現地調査から得られたものであり、対象施設を増やした場合には異なる事例がみられる可能性もある。本成果を入り口として、より詳細な調査が必要である。
  • 特に、各施設の処理条件(例えば、発酵状況、処理時間、豚ぷんの状態、副資材の種類など)が堆肥中の抗菌剤残留に及ぼす影響は未解明であり、更なる調査・研究が必要である。

具体的データ

図1 養豚場堆肥中の抗菌剤残留濃度,図2 抗菌剤の購入量と堆肥中残留濃度の関係,図3 処理手法や抗菌剤系統による堆肥化過程での抗菌剤除去率の違い,図4 オキシテトラサイクリン (OTC)使用中止後の堆肥及び堆肥原料中の残留濃度の変化

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:動物用抗菌剤の使用によるリスクを低減するための研究、包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:環境への抗菌剤・薬剤耐性菌の拡散量低減を目指したワンヘルス推進プロジェクト)
  • 研究期間 : 2017~2023年度
  • 研究担当者 : グルゲ キールティ シリ、渡部真文、呉克昌(日本養豚開業獣医師協会)、山根逸郎、小林創太、秋庭正人
  • 発表論文等 : Watanabe M. et al. (2023) J. Hazard. Mat. 459: 132310. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0304389423015935