要約
ホルマリン固定パラフィン包埋された53鳥種の家禽、野鳥の組織標本において、適切な市販抗体を用いてTおよびBリンパ球を免疫組織化学により同定する手法である。本手法により、鳥類のリンパ腫の診断、免疫応答に関する病理組織学的解析が可能となる。
- キーワード : 家禽、野鳥、リンパ球、免疫組織化学、ホルマリン固定パラフィン包埋標本
- 担当 : 動物衛生研究部門・衛生管理研究領域・病理・生産病グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
免疫組織化学(IHC)によるリンパ球の同定は、免疫学的解析や疾病診断に重要なツールである。しかし、鳥類のリンパ球同定技術に関わる知見は乏しく、また鳥類のリンパ球抗原に対する市販抗体は限られているため、本研究分野における大きな課題となっている。
我々はこれまでに、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)標本上の鶏リンパ球をIHCにより同定する方法を開発している。本研究では、家禽・野鳥を含む53鳥種について、脾臓等のTおよびB細胞領域が明瞭なリンパ組織標本を用い、FFPE標本上のリンパ球のIHCによる同定に適した抗体を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 市販抗体を用いたIHC(ポリマー法)により、53鳥種すべてのTリンパ球が同定可能である。また、53鳥種のうち46鳥種のBリンパ球が同定可能である(表1)。
- IHCによる鳥類のTリンパ球の同定には、抗ヒトCD3抗体(clone F7.2.38)が最適である(図1A)。細胞膜が陽性となる。
- Bリンパ球をIHCにより同定可能な抗体は鳥種によって異なるため、鳥種ごとに適切な抗体を選ぶ必要がある(表1)。
- 抗ヒトPAX5抗体(clone SP34)は最も幅広い鳥種で有用な抗体で、ハヤブサ目、スズメ目以外の鳥種のBリンパ球を同定できる(図1B)。核が陽性となる。
- 抗ニワトリBAFF-R抗体(clone 2C4)はキジ目、カモ目のBリンパ球の同定に適する(図1C)。細胞膜が陽性となる。
- 一部の鳥種では、抗ヒトBLA36抗体(clone A27-42)、抗ヒトCD20抗体(clone CD20、product No. PA5-16701)はTおよびBリンパ球に結合することがある。
成果の活用面・留意点
- 本研究の成果は、様々な鳥類のリンパ腫の診断や感染症における宿主免疫応答の解析を始め、免疫学・発生学・解剖学・野生動物学などの幅広い分野における研究に広く活用できる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2021~2023年度
- 研究担当者 : 黒川葵、山本佑
- 発表論文等 : Kurokawa A. and Yamamoto Y. (2023) J Vet Med Sci. 85:1121-1130