要約
本検査法は、鳥インフルエンザを引き起こすA型インフルエンザウイルスが持つ複数の遺伝子を同時に検出し、鳥インフルエンザウイルスの同定と病原性に関わるヘマグルチニン(HA)亜型(H5又はH7)の判定を可能にするリアルタイムRT-PCR法であり、検査の迅速化と省力化に貢献できる。
- キーワード : 高病原性鳥インフルエンザ、リアルタイムRT-PCR法、同時検出、省力化
- 担当 : 動物衛生研究部門・人獣共通感染症研究領域・新興ウイルスグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)は、鶏への高い致死性と強い伝播性から家畜伝染病に指定されている。我が国では家きん飼養農場におけるHPAIの発生をいち早く発見し、当該農場の飼養家きんを迅速に処分することで近隣農場への感染拡大や蔓延を食い止める防疫措置が執られており、国や都道府県の病性鑑定施設等が実施する本病の判定に資する遺伝子検査には正確性と迅速性が求められる。一方、多数の検体を扱うには手技が煩雑であり、検査結果の判明までに時間を要するなど検査者の負担が大きいため、検査の迅速化と省力化が求められる。
本研究で開発した方法は、複数のインフルエンザウイルスゲノムを一度に検出するリアルタイムRT-PCR法であり、迅速かつ簡便に鳥インフルエンザウイルスの同定とHA亜型の判定が可能となる。
成果の内容・特徴
- 本検査試薬群は、Set A及びSet Bの2種類のRT-PCR試薬と陽性対照DNAによって構成される。家きんの気管又は総排泄腔スワブを検査材料とし、事前調製された2種類の混合試薬(Set A及びSet B)を反応させることにより、鳥インフルエンザウイルスの同定(M遺伝子の検出)とHA亜型(H5又はH7遺伝子の検出)の判定が同時に可能である。
- 本検査法の感度(偽陰性の少なさ)と特異度(偽陽性の少なさ)は、現行の遺伝子検査に使用されているリアルタイムRT-PCR法と同等である。
- インターナルコントロール(IC)により、検査材料に起因するPCR阻害の有無も同時に確認することができる。
- 検査者のプレート操作が半減することに加えてRT-PCRの反応時間の短縮に成功したため、PCR装置を1台しか保有しない機関でも約170分で検査が終了し、従来の方法に比べて検査時間を約半分に短縮できる(図1)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 都道府県家畜保健衛生所、動物検疫所、動物医薬品検査所等。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国。
- その他 : 本法は、「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」の遺伝子検査法の一つに追加されたことから(「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針に基づく遺伝子検査の方法について」2024年9月30日付け6消安第3679号)、国や都道府県の病性鑑定施設等において利用されることが期待されており、2024年10月4日より市販が開始されている(農研機構プレスリリース、2024年10月4日)。また、同時に複数の遺伝子を検出する本法の使用に当たっては、多波長検出用PCR装置が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:動物衛生対応プロジェクトのうち、新たな感染症の出現に対してレジリエントな畜産業を実現するための家畜感染症対策技術の開発)
- 研究期間 : 2023~2024年度
- 研究担当者 : 宮澤光太郎、峯淳貴、常國良太、内田裕子、松本裕之(タカラバイオ(株))
- 発表論文等 : 「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針に基づく遺伝子検査の方法について」(2024年9月30日付け6消安第3679号)