要約
各種パリアムウイルス(Palyam virus:PALV)の広範な検出、ならびにPALVのうちチュウザン病を引き起こすチュウザンウイルス、およびチュウザン病と同様の病態を引き起こすと考えられるディアギュラウイルスの特異的な検出が可能な遺伝子検査法である。
- キーワード : アルボウイルス、パリアムウイルス、リアルタイムRT-PCR法、異常産、牛
- 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・海外病グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
わが国では、多様な節足動物媒介性(アルボ)ウイルスが牛や他の反芻動物に感染し、いわゆる異常産(流産、死産、早産および先天異常子の出産)を引き起こす。その中で、セドレオウイルス科オルビウイルス属のパリアムウイルス(Palyam virus:PALV)に分類されるチュウザンウイルス(Chuzan virus:CHUV)は、チュウザン病の原因として、子牛にさまざまな運動障害や大脳欠損および小脳形成不全を引き起こす。また、CHUV以外のPALVも牛の血液、ヌカカあるいは蚊から分離されており、ディアギュラウイルス(D'Aguilar virus:DAGV)は、新生子牛にチュウザン病と同様の病態を引き起こすと考えられている。DAGVの関与を疑う発症子牛の症例では、主に感染抗体の検出によって診断がなされており、コンベンショナルRT-PCRにより原因ウイルスが検出された例はない。これは、子牛の発症が認められる時点で原因ウイルスの多くが体内から消失しているためである。また、新生子牛の血清中のDAGV感染抗体は、初乳摂取後では移行抗体との区別ができないことや、CHUVとDAGVとの交差性により両ウイルスに対する抗体の区別が難しいことから、血清診断の問題点も多い。そこで本研究では、PALVの関与を疑う症例における診断技術の向上を目的として、わが国で分離された各種PALVの全ゲノム配列を決定し、得られた配列情報を活用して、PALVの高感度な検出ならびにCHUVとDAGVの識別が可能なリアルタイムRT-PCR法を開発する。
成果の内容・特徴
- わが国の九州・沖縄地方で1984~2018年に分離されたPALVは、全ゲノム解析によりCHUV、DAGV、ブニップクリークウイルスおよびマラカイウイルスの4つに分類される(表1)。
- 国内外で分離されたPALVの塩基配列情報を活用して新たに開発したPALV遺伝子検出用リアルタイムRT-PCR法は、2段階の検査法となっており、初回試験時に内部コントロールを含む3種類、2回目試験時に2種類のプライマー・プローブセットを使用することで、各種PALVの広範な検出と、CHUVおよびDAGVの特異的な検出が可能である(図1)。本法の検出限界は10~100コピー/反応である。
- 2019年2~4月に九州地方で発生したDAGVの関与を強く疑う牛異常産の症例において、発症子牛の血球や各種臓器を本法で検査すると、DAGV遺伝子が検出される(表2)。
成果の活用面・留意点
- 我が国で広く使用されている牛のアルボウイルス検出用マルチプレックスRT-PCR法(コンベンショナルRT-PCR法)でPALV陰性と判定された検体であっても、検体中にPALV遺伝子が残存していれば、本リアルタイムRT-PCR法により陽性と判定できる場合がある。
- 夏~秋にかけておとり牛等でPALVの感染があり、その年の冬から翌年の春にかけてチュウザン病にみられる病態が新生子牛に認められた場合、PALV感染の関与を明らかにする上で本法が有効である。
- PALVは他のオルビウイルス属(ブルータングウイルスおよび流行性出血病ウイルス)と同様に2本鎖RNAをゲノムにもつため、検査に用いるRNAは熱変性処理(98°C、5分間)を行い、その後に氷上で3分間以上静置してから本法に供する。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)
- 研究期間 : 2018~2020年度
- 研究担当者 : 白藤浩明、岸田なつみ、室田勝功、須田遊人、梁瀬徹
- 発表論文等 : Shirafuji H. et al. (2024) Pathogens 13:550