要約
同一豚の小腸から豚小腸上皮細胞株と豚小腸オルガノイドを同時に樹立し、免疫刺激剤で処理すると両培養細胞・組織間で自然免疫応答に差異が認められる。これらの培養細胞・組織を活用することで、養豚業で問題となる病原微生物に対するより効果的な予防・治療法の開発が可能となる。
- キーワード : 豚、小腸、株化細胞、オルガノイド、動物実験代替法
- 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・ウイルスグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ウイルスや細菌などの病原微生物感染に起因する下痢や呼吸器病などの常在疾病は、養豚で頻繁に発生しており、年間の死亡頭数は約125万頭に上ると推定される。薬剤耐性対策のために抗菌剤の慎重使用が求められる中、免疫調節機能をもつ乳酸菌や抗ウイルス薬など新たな予防・治療薬の開発が求められている。そこで、本課題では、これらの開発に使用する手法として、動物種ごとに反応性が異なる自然免疫応答の解析に適した、新たな豚小腸上皮細胞株の樹立を目指す。また、予防・治療薬候補の二次選抜に活用するため、より複雑な組織構造をもつ豚小腸オルガノイド(腸管上皮組織を構成する複数の細胞集団からなるミニ腸管組織)を同一豚の同一組織から樹立する。
成果の内容・特徴
- 本in vitro評価系は、同一個体の空腸上部より採取した組織片よりそれぞれ樹立された、遺伝学的背景を同じくする豚小腸上皮細胞株と豚小腸オルガノイドから構成される(図1)。
- 新たに樹立した豚小腸上皮細胞株は、微絨毛形成、粘液産生、ならびに細胞間接着形成などの腸管上皮細胞に特徴的な性質を保有する(図1左)。絨毛上皮細胞に特徴的なマーカー遺伝子に加えて、培養後14日目には杯細胞と内分泌細胞に特徴的なマーカー遺伝子も発現する(図2)。
- 豚小腸オルガノイドは、腸陰窩幹細胞マーカーと細胞間接着タンパク質を発現し、経時的に増殖する(図1右)。また、小腸上皮組織を構成する絨毛上皮細胞、幹細胞、パネート細胞、杯細胞、内分泌細胞に特徴的なマーカー遺伝子を発現し、腸管上皮組織を試験管内で模倣できる(図2)。
- 豚小腸上皮細胞株と豚小腸オルガノイドはロタウイルスなど豚の腸管ウイルスに感受性を示す。
- ウイルス感染のモデルとしてpoly(I:C)で豚小腸上皮細胞株と豚小腸オルガノイドを刺激し、免疫応答を解析すると、IFN-βのmRNA発現比に顕著な差は認められないが、IFN-βに応答して発現するMx1およびOAS1のmRNA発現比は豚小腸オルガノイドでより顕著な上昇傾向が認められる(図3)。
成果の活用面・留意点
- 養豚業で問題となる病原微生物に対する新たな予防・治療薬の開発において、候補資材の一次スクリーニングに豚小腸上皮細胞株を、二次スクリーニングに組織培養系である豚小腸オルガノイドを利用してin vitro評価を行うことで、高い効果が期待される資材の効率的選抜が可能となる。
- 豚小腸上皮細胞株と豚小腸オルガノイドはロタウイルス、伝染性胃腸炎ウイルスなど複数の豚腸管ウイルスに感受性を示すことから、ウイルス学的研究と予防・治療法の開発に活用できる。
- 本in vitro評価系を動物実験代替法として使用することで動物実験の削減が期待できる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(オープンイノベーション研究・実用化推進事業)
- 研究期間 : 2019~2024年度
- 研究担当者 : 宮澤光太郎、宮﨑綾子、須田遊人、宗田吉広、西川明芳、大橋誠一、芝原友幸、新開浩樹、岸田なつみ、橘紅李、松本果歩(東北大)、今村圭哉(東北大)、福山晧太郎(東北大)、生井楓(東北大)、北澤春樹(東北大)、鈴木香澄(岐阜県畜産研)、吉岡豪(岐阜県畜産研)、上西博英、竹之内敬人、伊藤智仁(家畜改良事業団)
- 発表論文等 : Matsumoto K. et al. (2024) Bioscience of Microbiota, Food and Health 43:342-351