ヨーロッパ腐蛆病菌は腐敗アミンであるチラミンを産生する

要約

ヨーロッパ腐蛆病菌の病原因子候補としてチラミンが挙げられているが、これまで本菌のチラミン産生能は証明されていない。本成果は、液体クロマトグラフタンデム型質量分析計を用いてヨーロッパ腐蛆病菌由来チラミンを定量し、本菌のチラミン産生能を証明した初の研究である。

  • キーワード : ヨーロッパ腐蛆病菌、ミツバチ幼虫、チラミン、チラミン定量法
  • 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・細菌グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ヨーロッパ腐蛆病菌は、ミツバチ幼虫の細菌性感染症であるヨーロッパ腐蛆病の原因菌である。本病は家畜伝染病予防法で家畜伝染病に指定されており、発症蜂群は巣箱ごと焼却処分する必要があることから、養蜂家にとって経済損失の大きい疾病である。ヨーロッパ腐蛆病菌は国内の蜂群に広く蔓延していることが示唆されており、日本では幼虫に強い毒性を示す株の分離頻度が高い。本病の効果的な予防策を講じるためにも発症機序の解明が必要であるが、強毒株による発症機序や病原因子については未だ明らかになっていない。ゲノム解析により、強毒株はチラミンの合成遺伝子を保有することが明らかとなっている。チラミンは、腐敗性アミン(食品が腐敗する際にタンパク質が分解されて生成されるアミン類)の1つであり人では食中毒を引き起こす物質として知られている。細胞傷害活性を持つことから、ヨーロッパ腐蛆病の病態形成に関与している可能性が指摘されている。しかし、ヨーロッパ腐蛆病菌が産生するチラミンを測定する方法が開発されていないため、本菌のチラミン産生能やヨーロッパ腐蛆病発症へのチラミンの関与については検証されていなかった。そこで本研究では、液体クロマトグラフタンデム型質量分析計(LC-MS/MS)を用いたヨーロッパ腐蛆病菌由来チラミンの定量法を確立することで、本菌のチラミン産生能を証明する。

成果の内容・特徴

  • 本研究は、人工培地およびミツバチ幼虫内における、ヨーロッパ腐蛆病菌によるチラミン産生を証明した初の報告である。
  • LC-MS/MSを用いることでヨーロッパ腐蛆病菌由来チラミンを定量することが可能である。
  • 幼虫中のチラミンは、イオン化を強く抑制されるため、本法では、重水素標識化チラミンを内部標準物質として用いることで安定した定量を可能としている。
  • 本法はサンプル中に最低3ng/mLのチラミンが存在すれば定量が可能であり、ミツバチ幼虫乳剤に終濃度50ng/mLになるようにチラミンを添加した際の回収率は103%(n=3、変動係数7.8%)である。本法では、菌の培養上清やミツバチ幼虫乳剤中のチラミンを測定することができる(図1)。
  • ヨーロッパ腐蛆病菌強毒株はチラミン合成能を有しており、培養上清中の平均チラミン濃度(130μg/mL、n=3、変動係数4.8%)は培養前の培地中の濃度(20μg/mL、n=3、変動係数20.8%)の約6倍に上昇する。
  • ヨーロッパ腐蛆病菌強毒株は感染したミツバチ幼虫内でもチラミンを産生し、その濃度は感染菌数に応じて増加する(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 今後は確立したチラミンの定量法を活用し、毒性の異なるヨーロッパ腐蛆病菌株におけるチラミン産生能の違いやヨーロッパ腐蛆病発症機序におけるチラミンの役割を明らかにする。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2023~2024年度
  • 研究担当者 : 岡本真理子、上垣隆一、髙松大輔
  • 発表論文等 : Takamatsu et al. (2024) J. Vet. Med. Sci. 86:463-467