要約
臨床検体からClostridium massiliodielmoemseが世界で初めて分離された。本菌は、病性鑑定指針で紹介されるClostridium属菌同定PCRでClostridium novyi A型と誤判定される。このことは家畜に病気を起こすClostridium属菌を正確に同定可能な新規PCR法開発の必要性を示している。
- キーワード : 菌株同定PCR、Clostridium massiliodielmoense、Clostridium novyi、fliC
- 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・細菌グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
Clostridium属菌は、家畜及び人に感染して、主に毒素を産生することで病気を引き起こし、家畜においてはしばしば突然死として発見される。また、Clostridium属菌は偏性嫌気性という特性から検体からの分離及び培養が非常に困難であるため、多くのClostridium属菌感染症の原因菌特定には、臓器や組織からPCRにより直接病原体の遺伝子を検出する手法(ダイレクトPCR)が用いられることがある。PCRによる同定結果が症例の診断名に直結することもあるため、同定PCRの特異性は担保されている必要がある。現在、ガス壊疽(悪性水腫及び気腫疽)の原因菌の同定には、鞭毛のFlagellin遺伝子(fliC)の領域を標的としたマルチプレックスPCR(Clostridium chauvoei、Clostridium septicum、Clostridium novyi A型/B型及びClostridium haemolyticumを同定可能)が開発されており(Vet. Mic. 86.257-267,2002)、病性鑑定指針に掲載され、国内外で広く利用されている(以下fliCのPCR)。
2023年に我々は、fliCのダイレクトPCRではC. novyi A型の感染が疑われたが、実際には別菌種であるC. massiliodielmoenseが分離された牛の症例に遭遇した。本菌は、2016年に健康な人の便サンプルで発見され、これまで動物由来検体からの分離報告はなく、fliCのPCRに対する反応性も検討されていない。そこで本研究では、分離されたC. massiliodielmoenseがfliCのPCRでC. novyi A型と判定されることを確認し、その原因について調査する。
成果の内容・特徴
- 黒色水様性下痢を呈して死亡した牛の肝臓、脾臓からC. massiliodielmoenseが国内で初めて分離された(3株、以下TMN61-TMN63)。動物および臨床検体からの本菌の分離は世界初である。
- 分離株はいずれも卵黄加変法GAM寒天培地にて黄白色の光沢のない不成形コロニーを形成し、幅の広いレシチナーゼ反応を呈すが、遊走性を示すなど既知のC. massiliodielmoense株の性状とは一部異なっている。(図1、2)。
- TMN61-TMN63 3株からはいずれもfliCのPCRでC. novyi A型を示す産物(343bp)が増幅され(図3)、C. novyi A型と誤同定される。また、TMN61-TMN63由来の増幅産物の塩基配列は本症例の臓器からダイレクトPCRで増幅された同サイズの産物の塩基配列と100%一致しており、本症例で「C. novyi A型」感染が疑われた原因もC. massiliodielmoense感染によるものである。
- TMN61-TMN63 3株は16S rRNA遺伝子解析ではC. massiliodielmoenseと同定されるものの、fliCのPCRでの増幅産物の塩基配列は、C. massiliodielmoense基準株の該当領域塩基配列よりもC. novyi A型基準株の該当領域塩基配列に似ていた(図4)。この結果は、「fliC領域の塩基配列が少なくともこの2菌種間では菌種特異的ではないこと」及び「Clostridium属菌の同定にはfliC領域以外の領域を標的として使用する必要があること」を示している。
成果の活用面・留意点
- C. massiliodielmoenseが本症例の主因になっていたか否かついては更なる解析が必要である。
- 他のClostridium属菌においても、fliCのPCRによる誤同定事例がないかを調査し、本症例の解析結果とともに、より正確なClostridium属菌同定PCRの開発に活かす。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:動物衛生対応プロジェクトのうち、新たな感染症の出現に対してレジリエントな畜産業を実現するための家畜感染症対策技術の開発)
- 研究期間 : 2023~2024年度
- 研究担当者 : 馬田貴史、髙松大輔、梅田麻美(大分県家保)、児玉彬(大分県家保)
- 発表論文等 : Mada T. et al. (2024) J. Vet. Med. Sci. 86:925-929