Salmonella TyphimuriumにおけるH抗原の発現状態を定量できるリアルタイムPCR系

要約

Salmonella Typhimurium(S. Typhimurium)の鞭毛H抗原には1相と2相の2つの抗原相がある。本研究では、S. TyphimuriumのH抗原相の解析に有用なツールとして、菌集団中のH抗原の発現状態を定量できるリアルタイムPCR系を構築する。

  • キーワード : サルモネラ、H抗原相、定量リアルタイムPCR系
  • 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・細菌グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

食中毒起因菌であるSalmonella属菌は、菌体O抗原と鞭毛H抗原の組み合わせにより約2600の血清型に細分される。中でも、S. Typhimuriumは家畜あるいは食中毒患者から分離される率が高い血清型として知られている。S. Typhimuriumは異なるタンパク質から成る2種類の鞭毛を持つ。これら2種類の鞭毛は、抗原性の違いからH抗原1相及びH抗原2相と呼ばれ、1つの菌細胞はどちらか1種類のH抗原を発現している。一方で、1相と2相の発現は可逆的に変化することが知られ、その変化は相変異と呼ばれる(図1)。しかし、S. Typhimuriumが相変異を起こしH抗原の発現状態を変えることが、本菌の感染機序においてどのような意味があるのか(相変異の生物学的意義)については未だ解明できていない。その理由として、菌集団中のH抗原の発現状態(菌集団の中でどれくらいの割合の菌細胞がどちらの相のH抗原を発現しているのか)を定量的に評価する系が確立されておらず、H抗原の相変異と感染機序とを関連づけて解析できていないことが挙げられる。
そこで本研究では、H抗原相変異の生物学的意義の解明に先立ち、菌集団中のH抗原の発現状態を定量できるリアルタイムPCR系(H抗原定量リアルタイムPCR系)を構築する(図2)。また、家畜の臨床現場ではH抗原の血清型別に難渋する事例が知られており、その補足試験として本定量リアルタイムPCR系の発展が期待できる。

成果の内容・特徴

  • H抗原定量リアルタイムPCR系は、H抗原1相発現菌のみから増幅産物が得られるプライマー及びプローブセットA、H抗原2相発現菌のみから増幅産物が得られるプライマー及びプローブセットB、H抗原1相発現菌及びH抗原2相発現菌の両者(菌集団中の全ての菌)で増幅産物が得られるプライマー及びプローブセットCの3セットを用いることで、高い定量性を実現している(図3)。
  • 菌集団中のH抗原の発現状態について、H抗原定量リアルタイムPCR系による遺伝子レベルでの解析と、マイクロプレート凝集反応試験によるタンパク質発現レベルでの解析を行い、両試験における結果を比較すると、高い正の相関(相関係数=0.991、P<0.001)が認められる。このことから、本定量リアルタイムPCR系はタンパク質の発現状態を反映すると考えられる。
  • H抗原定量リアルタイムPCR系はS. Typhimurium実験室株だけでなく、家畜より分離されたS. Typhimurium野外株に対しても利用できる。

成果の活用面・留意点

  • 本定量リアルタイムPCR系は増菌培養を必要としないS. TyphimuriumのH抗原相の解析ツールであり、臓器あるいは糞便などの生体サンプルから直接H抗原の発現状態を解析できる点で、相変異の生物学的意義の解明に向けた研究への展開が期待される。
  • 現在Salmonella属菌の病性鑑定において実施されているH抗原血清型別の補足試験として、H抗原定量リアルタイムPCR系が検査の迅速化・省力化に貢献できる可能性がある。
  • 本定量リアルタイムPCR系が2つのH抗原相を持つS. Typhimurium以外の血清型のSalmonella属菌に対しても応用できるかを今後検討する必要がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金、民間資金等(旗影会研究助成)
  • 研究期間 : 2022~2024年度
  • 研究担当者 : 中山ももこ、新井暢夫、小川洋介、楠本正博、江口正浩
  • 発表論文等 : Nakayama M. et al. (2024) J. Microbiol. Methods Oct:225:107013
    doi.org/10.1016/j.mimet.2024.107013