要約
牛病原細菌ヒストフィルス・ソムニが混入した凍結精液を使用した人工授精により、雌牛に膣炎や不受胎等の繁殖障害が引き起こされる。精液保存液の抗菌活性の維持や品質管理が本疾病を防ぐ上で重要と考えられる。
- キーワード : ヒストフィルス・ソムニ、牛、繁殖障害、人工授精、凍結精液、抗菌活性
- 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・細菌グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
牛の人工授精は、受胎率の向上、優秀な遺伝形質の早期判定、遺伝資源の保存等の目的で普及した技術であり、現在、国内の95%以上の牛が人工授精により生まれている。一方、健康な種雄牛であっても一部は生殖器に病原細菌を保菌しており、それらは精液中に混入することがある。凍結精液に病原細菌が混入した場合、人工授精により短期間かつ広範囲に原因菌が伝播し被害が甚大になることから、凍結精液保存液には、細菌の増殖を防ぐ目的で抗菌剤を添加することが推奨されている。
ヒストフィルス・ソムニは、牛に呼吸器病、髄膜脳脊髄炎、流産等の様々な病気を引き起こす病原細菌である。本菌は健康牛の生殖器にも保菌されることが知られているが、これまで人工授精により伝播したという報告はない。今回、本菌が人工授精により雌牛に伝播し、膣炎および繁殖障害を引き起こした世界初の事例に遭遇したため、分離された菌の性状および伝播の原因を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 2020年4月、同一ロットの凍結精液を用いて人工授精を実施した牛2頭中2頭が膣炎を発症した(図1)。うち1頭は治療後も1年以上不受胎が継続した。
- 膣炎発症牛2頭の膣スワブ及び人工授精に使用した同一ロットの凍結精液からヒストフィルス・ソムニが分離された。分離菌株は、パルスフィールドゲル電気泳動解析によりいずれも同一のバンドパターンを示すことから(図2)、凍結精液に混入した菌株が人工授精を介して伝播し、膣炎を引き起こしたと考えられる。
- 当該凍結精液を作製した授精所が2019~2021年に作製した凍結精液5ロットは、いずれも比較対照として使用した他の4カ所の授精所が作製した凍結精液よりも抗菌活性が弱く、ヒストフィルス・ソムニ以外にもクレブシエラ属菌等の細菌が分離されている。一方、他の4カ所の授精所が作製した凍結精液からは細菌は分離されない。
- 凍結精液保存液への添加が推奨されている抗菌薬(ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、スペクチノマイシン、タイロシンおよびリンコマイシン)に対するヒストフィルス・ソムニ分離菌株の最小発育阻止濃度(細菌の発育を阻止できる最小の抗菌剤濃度)は、いずれも推奨濃度以下である(表1)。
成果の活用面・留意点
- 本報告は、ヒストフィルス・ソムニが人工授精を介して伝播し膣炎を引き起こすことを世界で初めて明らかにしたものである。ヒストフィルス・ソムニは健康な種雄牛の生殖器にも保菌されることがあるため、凍結精液を作製する際は本菌が混入するリスクを把握しておく必要がある。
- 人工授精によりヒストフィルス・ソムニが伝播した要因の一つとして、凍結精液保存液の抗菌活性が不十分であり混入した細菌の増殖を抑えることができなかった可能性が考えられる。病原細菌が混入した凍結精液を人工授精に使用することによる繁殖雌牛への影響は甚大であるため、凍結精液の細菌検査や抗菌活性の維持等の品質管理が求められる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2024年度
- 研究担当者 : 上野勇一、印丸美紀(福岡県家保)、日名子健司(福岡県家保)、濱田恭平(福岡県家保)、尾川寅太(福岡県家保)
- 発表論文等 : Immaru M. et al. (2024) Vet. Microbiol. 295:110147
doi.org/10.1016/j.vetmic.2024.110147