要約
Salmonella Typhimuriumのうち分離頻度が上昇している遺伝系統に特異的な可動性遺伝因子は、銅給餌豚におけるサルモネラの腸管定着性向上に寄与する。
- キーワード : Salmonella Typhimurium、銅抵抗性、可動性遺伝因子、腸管定着性
- 担当 : 動物衛生研究部門・人獣共通感染症研究領域・腸管病原菌グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
我が国の家畜に分布するSalmonella Typhimurium(ST)およびその非定型株は9つの遺伝子型に区分され、特に9型は国内外で分離頻度が高まっている。9型は染色体上にICEmSTと呼ばれる可動性遺伝因子を保有しており、本因子には銅抵抗性遺伝子群が搭載されている。銅は豚の飼料添加物として使用されており、サルモネラをはじめとした腸管病原菌の選択圧になり得る。このためICEmSTはサルモネラの環境抵抗性、特に腸管への定着性や生残性に寄与することが予想されるが、詳細は不明である。本研究では銅給餌豚への感染試験を通して、ICEmSTがサルモネラの豚腸管定着性に与える影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 農場での使用状況を反映した銅濃度調製飼料(硫酸銅 : 150ppm)を離乳豚に給餌すると、糞便中の銅濃度が給餌前と比較して約2倍上昇し、平均700ppmとなる(図1A)。
- ICEmSTを保有しない病豚由来STであるL-3569株と、この株にICEmSTを伝達した株(L-3569TC株)とを、それぞれ豚に投与すると、L-3569TC株投与群の排菌数はL-3569株投与群と比べて高値で推移し、感染2日後には統計学的に有意な差が検出される(図1B)。
- 炎症マーカーの一つである血清中ハプトグロビン濃度は、L-3569TC株投与群において最も高値で推移し、L-3569株投与群より強い炎症反応が生じていることが示唆される(図2)。
- L-3569TC株投与群の糞便スコア(0 : 通常便、1 : 軟便、2 : 下痢便、3 : 水様性下痢)は、L-3569株投与群より感染3日後から試験終了まで高値で推移していることから、ICEmSTを保有するサルモネラでは下痢の持続期間が延長することが示唆される(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本研究の成果はICEmSTが銅存在下におけるサルモネラの豚腸管定着性に寄与することを示している。
- 銅は成長促進と抗菌作用を目的に豚の飼料添加物として汎用されており、豚腸管内では病原細菌が選択され得る濃度まで濃縮される。このため、ICEmSTが9型株の顕在化した要因の一つである可能性が考えられる。
- 本研究成果を周知することで、抗菌薬のみならず銅をはじめとした重金属によっても病原細菌を選択する恐れがあることを啓発する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2020~2024年度
- 研究担当者 : 新井暢夫、芝原友幸、西浦玲奈、玉村雪乃、西浦颯、宗田吉広、澤田浩、渡部綾子、岩田剛敏、秋庭正人(酪農学園大)、楠本正博
- 発表論文等 : Arai N. et al. (2024) Scientific Reports 14:31407