ワクチン株と抗原性の異なる口蹄疫ウイルス感染に対する備蓄ワクチン倍量接種の効果

要約

緊急接種用に国が備蓄する不活化口蹄疫ワクチンを規定の2用量接種した牛では、ワクチン株と同一血清型ながらも抗原性が異なるウイルス攻撃株に対して、規定接種量で免疫した牛よりも高い中和抗体が誘導され、蹄および鼻口腔周辺部における水疱形成やウイルス排泄が抑制される。

  • キーワード : 口蹄疫、備蓄ワクチン、牛、発症防御、排泄抑制
  • 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・海外病グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

口蹄疫発生時、摘発淘汰や移動制限等の措置のみで感染拡大を阻止することが困難な場合には、不活化ワクチンの緊急接種が検討される。口蹄疫ウイルスには7つの血清型が知られるが、同一血清型内でも株ごとに抗原性状が異なるため、標的ウイルスと抗原性が一致するワクチンを用いることが望ましい。国は、近隣諸国で流行する野外株の特性等を踏まえて選定したワクチン株により製剤化された不活化ワクチンを緊急接種用に備蓄している。しかし、国内に侵入するウイルスの抗原性が、選定されたワクチン株と同一である保証は無い。近年、新たな抗原性を備えた変異ウイルスや従来の流行地以外の地域での発生等も報告されているため、抗原性の不一致によりワクチン効果が減弱する可能性を想定しておく必要がある。本研究では、血清型OおよびAの口蹄疫ワクチンについて、接種用量の増量が抗原性の異なる野外株に対する防御効果に与える影響を評価し、発生時の緊急対策に関する知見を取得する。

成果の内容・特徴

  • 血清型OおよびAのワクチン株とは抗原性の異なる野外株による攻撃試験(試験1、O/JPN/2010で攻撃)(試験2、A/IRN/2016で攻撃)において、ワクチン1用量を接種した牛群では発熱や蹄および鼻口腔周辺部における水疱の形成が認められ、血清、口腔・鼻腔スワブからウイルスが検出される。一方、2用量を接種した試験1の牛群では発症およびウイルス排泄が完全に抑制される。試験2でも一部で明らかな水疱形成の抑制がみられ、ウイルス排泄も口腔のみに限定される。
  • 攻撃後の臨床スコアは、ワクチン接種用量の増加に伴って低下する(図1)。大量の感染性ウイルスを含む水疱の形成が抑えられることで、群内でのウイルス拡散が抑制される。
  • 攻撃後の血清および鼻腔スワブ中のウイルス量は、ワクチン接種量の増加に伴って減少する(図2)。
  • 2用量接種した牛のうち水疱形成の抑制やウイルス排泄量の減少が見られた個体では、供試したその他のワクチン接種牛と比較して、攻撃時点での攻撃株に対する中和抗体価が上昇しており、より高い防御能が付与されている(表1)。

成果の活用面・留意点

  • ワクチンを2用量接種することは、ワクチン株とは抗原性の異なるウイルスが侵入した場合の緊急対策として、感染拡大防止が期待できる。
  • 緊急接種に用いる備蓄ワクチンには数量的な制約があるため、摘発淘汰等の防疫措置と適切に組み合わせ、感染拡大防止に効果的なワクチン接種を実施することが重要である。本研究成果は、発生状況に応じた防疫方針の検討を支える科学的根拠を提供するものである。

具体的データ

図1 ワクチン接種用量の違いによる攻撃後の臨床スコア(接種後7日間の合計値),図2 ワクチン接種用量ごとのウイルスの総排泄量(攻撃後から終了まで),表1 ワクチン接種牛群における攻撃時の攻撃株およびワクチン株に対する中和抗体価

その他

  • 予算区分 : 交付金、その他外部資金(農林水産省 : 戦略的監視・診断体制整備推進委託事業)
  • 研究期間 : 2017~2024年度
  • 研究担当者 : 川口理恵、西達也、深井克彦、生澤充隆、國保健浩、森岡一樹
  • 発表論文等 : Kawaguchi R. et al. (2024) J Vet Med Sci. 86:777-786