要約
2016~2022年にミャンマーで検出された口蹄疫ウイルスは同時期のアジア流行株と近縁であり、牛と豚に接種すると水疱形成やウイルス排泄が認められる。WOAH準拠のウイルス分離法、RT-PCR、ELISAにより当該株を検出可能であり、既存診断法は国内侵入時の迅速な摘発に有効である。
- キーワード : 口蹄疫、ミャンマー、遺伝学的特徴、感染動態、既存診断法の有効性
- 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・海外病グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ミャンマーは口蹄疫の常在国であり、南アジア地域と隣接する地理的特性や周辺国への牛の流通が盛んな産業的特性から、東南アジア・東アジア地域への感染拡大の要因となりうる。実際に、2010年に日本や韓国などの東アジア諸国における発生株は、同時期のミャンマー流行株と同じ遺伝子系統に属していたことが報告されている。本研究では、ミャンマーの北部カチン州から南部タニンダーリ地方域において2016~2022年の野外発生例から水疱上皮検体を収集し、ウイルスゲノム配列解析および牛・豚への実験感染を行い、感染動態を明らかにする。また、WOAH準拠の既存診断法を用いて臨床検体および感染動物からウイルスを検出し、ミャンマー流行株の侵入時の診断体制や防疫対応に資する情報を提供する。
成果の内容・特徴
- 検出されたウイルスは血清型O(ME-SA/Ind-2001e系統、SEA/Mya-98系統)および血清型A(ASIA/Sea-97系統)に分類され、同時期の近隣諸国発生株と近縁である(図1)。
- ME-SA/Ind-2001e系統に属するウイルスの全長ゲノム配列を決定し系統解析を実施すると、3つの遺伝群に分類される。2019~2022年に検出されたウイルスは2022年インドネシア発生株と同じ遺伝群に属する。
- 2022年インドネシア発生株と近縁な2019年分離株を接種された牛と豚は、接種後4日以内に蹄と鼻口腔周辺部に水疱が形成され(図2A)、鼻腔・口腔スワブ中には豚への経口経路感染量(106.0 TCID50)を超えるウイルスが接種3日以内に排泄される(図2B)。
- 既存のWOAH診断マニュアルに準拠したウイルス分離法、RT-PCR、ELISA法は、ミャンマーで収集された水疱上皮検体、およびミャンマー分離株感染動物からのウイルス、遺伝子、抗体を検出可能であり、診断に有用である。
成果の活用面・留意点
- ミャンマー流行株が近隣諸国のウイルスと遺伝的に近縁であることから、本地域の監視はアジア地域全体の流行動態把握や発生リスク評価に重要であり、診断方法の整備や防疫措置構築に有用な情報となる。また、これらの株は既存のWOAH準拠診断法で検出可能であることから、国内に侵入した場合でも現在の診断体制で対応が可能である。
- 本研究で示された牛・豚での感染動態から、高い遺伝的近縁性を示すウイルスが国内に侵入した場合、症状が顕在化している時点では群内で感染が拡大している可能性が高く、高密度飼養地域では大規模流行に繋がる可能性がある。本病の防疫対策の基本である早期摘発が重要である。
- WOAH診断マニュアルに準拠したウイルス検査法は、ミャンマー流行株の検出および感染動物の診断に有効であり、発生時の診断やサーベイランスにおける検査方法として有用である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業 : 動物衛生対応プロジェクトのうち、新たな感染症の出現に対してレジリエントな畜産業を実現するための家畜感染症対策技術の開発)
- 研究期間 : 2023~2025年度
- 研究担当者 : 川口理恵、西達也、深井克彦、森岡一樹、Khin Ohnmar Lwin(ミャンマー農業・畜産・灌漑省)
- 発表論文等 : Kawaguchi R. et al. (2025) Transbound. Emerg. Dis.
doi:10.1155/tbed/1532487