要約
ワクチン接種母豚由来の異なる移行抗体価を示す子豚に対して、豚熱ウイルスを接種し、移行抗体の防御効果を解析すると、流行株に対する移行抗体価45倍(GPE-株を使用した中和試験では105倍に相当)が臨床症状やウイルス血症・排泄を防御する閾値であることが明らかとなる。
- キーワード : 豚熱、移行抗体、発症防御、防御閾値、GPE-ワクチン
- 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・海外病グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
2018年9月にわが国で26年ぶりに豚熱が発生し、2025年11月までに全国の飼養豚で100症例が確認されている。母豚が持つ抗体は子豚へ初乳により移行する。本抗体は移行抗体(MDA)と呼ばれ、ウイルス感染に対して子豚の受動免疫として防御効果を発揮する。
本研究では、国内で使用されるGPE-ワクチンを接種された母豚由来の異なるMDA価を有する子豚が、現在わが国で流行している豚熱ウイルスJPN/1/2018株の攻撃に対して、臨床症状やウイルス血症および排泄についてどの程度防御されるかを明らかにすることを目的とする。また、GPE-株に対するMDA価が128倍以上の子豚については、ワクチン接種による抗体応答が干渉されることが知られている。そこで本研究では、発症防御に必要なMDA価と抗体応答が干渉されるMDA価の関連性についても併せて比較解析する。
成果の内容・特徴
- 38頭の子豚を3群に分類し、2×105 TCID50のJPN/1/2018株を経口接種する。群1(n=16)はJPN/1/2018株に対するMDA価が<2~5.6倍、群2(n=16)はMDA価が45~362倍、群3(n=6)はMDA陰性の対照群である(表1)。
- 群1および群3の子豚は、40°C以上の発熱、10,000個/μL以下の白血球減少症、沈鬱、振戦、食欲不振、下痢、運動失調、および紅斑を示す。一方、群2の子豚は、死亡した2頭を除き、明瞭な臨床症状を示さない。なお、死亡豚2頭は、他の供試豚と比べて、導入時から発育不良気味であり、何らかの基礎疾患を有していた可能性があるとともに、群内での順位も低く、体調が悪化しやすい状況にある。
- 群1および群3の子豚からは同程度の量のウイルス遺伝子や感染性ウイルスが検出されるが、群2ではウイルス遺伝子や感染性ウイルスの検出が顕著に抑制される(図1)。
- JPN/1/2018株による臨床症状やウイルス血症および排泄を防御する閾値となるMDA価は45倍である。JPN/1/2018株に対するMDA価45倍は、JPN/1/2018株とGPE-株の抗原関連性(r1値)を用いた計算により、GPE-株を用いる都道府県の中和試験では105倍になると算出される。
成果の活用面・留意点
- ワクチン接種による抗体応答が干渉されるGPE-株に対するMDA価128倍と豚熱ウイルスに対する発症防御に必要なMDA価105倍は非常に近接した価である。そのため、農場防疫においては、ワクチン接種のみに依存するのではなく、バイオセキュリティ対策も併せて徹底することが重要である。
- 臨床症状やウイルス血症・排泄を防御する閾値以上のMDA価を有する子豚でも一部は試験期間中に死亡した。そのため、基礎疾患や群内での順位によっては、閾値以上のMDA価を有する子豚でも豚熱ウイルスの感染により発症する可能性があることに留意する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業 : CSFの新たな総合的防除技術の開発)
- 研究期間 : 2022~2024年度
- 研究担当者 : 深井克彦、西達也、生澤充隆、川口理恵、森岡一樹
- 発表論文等 : Fukai K. et al. (2025) Vet. Res. 56:151