要約
牛の脳幹から作成したIKBM細胞は、神経細胞様の形態及び特徴を有する細胞に分化誘導可能な不死化細胞株であり、複数のアルボウイルスに感受性を示す。本細胞は、牛の神経系におけるアルボウイルス感染機序を解析するin vitroモデルとして活用できる。
- キーワード : アルボウイルス、牛異常産、不死化細胞株、牛脳由来細胞、RNAシーケンシング
- 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症領域・疫学・昆虫媒介感染症グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
我が国では、牛の中枢神経に障害を起こすアカバネ病などのアルボウイルス感染症の流行がしばしば起こり、生産性の低下が問題になる。近年のサーベイランスで多様なアルボウイルスの国内侵入が明らかになっており、防疫上、各ウイルスの病原性の確認が重要である。しかし、大型動物である牛の生体を用いた病原性評価は制約が多く、代替手段の開発が求められる。そこで本研究では、アルボウイルスの病原性を評価するための技術基盤を構築することを目的として、アルボウイルスの感染標的である牛の脳幹(延髄)から細胞を初代培養し、遺伝子導入による不死化を行うことにより、新規細胞株(IKBM細胞)を樹立する。さらに、既存の牛胎児脳由来細胞株(FBBC-1)を比較に用いて神経分化誘導処理やRNAシーケンシングを行い、神経学的および免疫学的特性を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 不死化遺伝子が導入されたIKBM細胞は、長期間継続的に増殖することができる(図1)。
- IKBM細胞は、神経分化誘導剤の処理によって突起を伸長して神経細胞様の形態へ分化し(図2)、神経系細胞に特徴的な遺伝子の発現パターンを示す。
- IKBMおよびFBBC-1細胞は、どちらも神経系の性質を持つものの、IKBM細胞では複数の免疫調節分子が誘導処理の有無にかかわらず明確に発現することが特徴である(図3)。
- IKBM細胞は、アカバネウイルスをはじめとした複数のアルボウイルスに感受性を示す(図4)。
成果の活用面・留意点
- IKBM細胞は、牛の神経系を標的とする病原体の感染機序を解析するin vitroモデルとして有用な基盤を提供する。留意点として、アルボウイルスの感染は成立するものの、増殖効率は低いため、大量増殖などには適さない。一方で、感染機構や宿主応答の解析には有用である。
- IKBM細胞は、牛の神経分化の分子機構の解析や、神経系における免疫調整因子の役割の解明にも活用できる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、その他外部資金(畜産ニューテック協会助成金)
- 研究期間 : 2023~2024年度
- 研究担当者 : 池田里奈、梁瀬徹、小西美佐子、室田勝功、田中省吾、竹之内敬人
- 発表論文等 : Ikeda R.et al. (2025) Front. Cell. Infect. Microbiol. 15:1518808