要約
国内の同一農場から分離された3株の鶏伝染性気管支炎ウイルス(KS2~KS4)はゲノムの組換え株であり、これらは共通の祖先株と3種類の異なる遺伝子型の株が組換えを起こした、あるいは既存のKS3と2種類の異なる遺伝子型の株が組換えを起こしたことにより発生したと推定される。
- キーワード : 鶏伝染性気管支炎ウイルス、全ゲノム情報、系統解析、ゲノム組換え
- 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・ウイルスグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
鶏伝染性気管支炎(IB)は鶏の急性呼吸器病であり、呼吸器症状に加えて腎炎や産卵率の低下等の多様な症状を示し、家禽産業上、経済的損失の大きいウイルス性疾病の一つとして知られている。原因となるIBウイルスはコロナウイルス科に属し、一本鎖RNAゲノムを有するウイルスである。その遺伝子型は、宿主細胞への侵入に重要な役割を果たすスパイクタンパク質(S)の遺伝子情報に基づいて分類される。近年、全ゲノム情報を用いた解析により、IBウイルスは野外で頻繁にゲノムの組換えを起こすことが世界的に報告されているが、国内ではこれまで全ゲノム情報に基づく解析報告はない。本研究は、過去、国内において同一農場から分離されたウイルス3株(KS2~KS4)について、それらの全ゲノム情報を用いた組換え解析及び系統解析から遺伝的特徴を明らかにすることを目的とする。
成果の内容・特徴
- 同一農場から分離されたKS2、KS3及びKS4は、S遺伝子領域において塩基配列一致率は相互に低く、これらの遺伝子情報からそれぞれMass、JP-IV及びGray遺伝子型に分類される。一方、S遺伝子領域外のゲノム領域においては高い塩基配列一致率を示す。
- KS2~KS4の発生は、①共通の祖先株と3種類の異なる遺伝子型の株がそれぞれゲノムの組換えを起こした、あるいは②既存のKS3と2種類の異なる遺伝子型の株がそれぞれゲノムの組換えを起こしたことによるものと推定される(図1)。
- KS2及びKS4において推定されたS遺伝子を含む組換え領域には、これまでに複数回のゲノム組換えを経たと推測できる配列的特徴がある。
成果の活用面・留意点
- IBウイルスは、ゲノムの組換えにより病原性やワクチンの有効性に関わる性状変化を起こす可能性があることから、農場内への複数種ウイルスの侵入や残存を防止する必要がある。一般的な衛生対策に加えて、農場への立ち入り制限と車両・器具の消毒、オールイン・オールアウト方式の実施と出荷後の十分な消毒などのバイオセキュリティ対策の徹底を図ることが重要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業 : 動物衛生対応プロジェクトのうち、新たな感染症の出現に対してレジリエントな畜産業を実現するための家畜感染症対策技術の開発)
- 研究期間 : 2021~2024年度
- 研究担当者 : 谷川太一朗、真瀬昌司、平松香菜恵、渡邉聡子、井関博
- 発表論文等 : Tanikawa T. et al. (2025) Arch. Virol. 170:203