牛ウイルス性下痢ウイルスに汚染された細胞株からのウイルス除去方法

要約

ウイルス阻害剤であるDB772と細胞の限界希釈クローニング法を組み合わせることにより、牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)に汚染された細胞株からウイルスを除去する手法である。国内外で問題となっている培養細胞のBVDV汚染に対し、本手法が新たな解決策となることが期待される。

  • キーワード : 細胞株汚染、BVDV、ウイルス除去、薬剤処理、DB772
  • 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・ウイルスグループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

牛胎子血清(FBS)は細胞培養に用いられる一般的な生物由来原料の1つであるが、その使用には常に原料となった牛胎子に由来する病原体の混入リスクが存在する。特に混入リスクの高い病原体として、妊娠牛から胎子に垂直感染し、胎子の体内でウイルスが大量に増殖する牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)があげられる。BVDVの多くは細胞に感染しても明瞭な変性効果を示さないため、BVDVが混入したFBSを細胞培養に使用すると、気が付かないうちに細胞がBVDVに汚染され、正確な実験結果が得られなくなる。現在、細胞提供バンクから購入できる細胞株の中にもBVDV汚染が判明しているものが複数あり、培養細胞のBVDV汚染は国内外を問わず問題となっている。
近年、ウイルス阻害剤の1つである「DB772」を用いてBVDV汚染細胞株1種からのウイルス除去に成功したという報告がなされている(Gray AR. et al. (2021) Front. Vet. Sci. 8:715120)。一般的に、一度ウイルスに汚染された細胞を非感染の状態に戻すことは難しく、DB772を用いた手法が様々な汚染細胞株に広く適用できるのであれば、細胞株のBVDV汚染に対して有効な解決策となりうる。そこで本研究では、DB772を用いた細胞からのBVDV除去方法について、既報(Gray AR. et al.)の手法に改良を加えることにより、複数の汚染細胞株に適用可能な手法を確立する。

成果の内容・特徴

  • 本手法は、既報(Gray AR. et al.)のDB772を用いた方法と限界希釈クローニング法を組み合わせた新しいウイルス除去法である。
  • BVDV汚染が判明している5種の細胞株(BL3.1、EBTr、A26、FLK-BLV、CC81)に対し、DB772は0.04~0.4μM以上の薬剤濃度でウイルス遺伝子量を有意に減少させる(図1)。既報(Gray AR. et al.)の方法に倣ってDB772を添加した培養液中で上記の汚染細胞株を継代培養した場合、ウイルス遺伝子量は一時的に減少するものの、継代5回目までには元の水準まで戻り、細胞株からウイルスを除去できない(図2)。これは、DB772に耐性を持つウイルスの出現が原因である。
  • 4μM以上の薬剤濃度では生細胞数の減少と細胞形態の変化を引き起こし、DB772の細胞傷害性が問題となる(図3)。
  • DB772処理と細胞の限界希釈クローニングを組み合わせた本手法では、耐性ウイルスの出現と細胞傷害性の影響を抑えながら薬剤を処理することができ、EBTr以外の4種の汚染細胞株でBVDV陰性亜株が得られる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 国内外で問題となっている培養細胞のBVDV汚染において、汚染細胞株からウイルスを除去できる本手法は、新たな解決策の1つとなると期待される。
  • EBTrのように細胞傷害性の影響を強く受ける細胞株では、陰性亜株の取得が困難な場合がある。
  • 細胞培養に使用するFBS製造ロットの事前検査や、定期的な細胞のウイルス検査など、BVDV汚染を未然に防ぐための対策は今後も継続する必要がある。

具体的データ

図1 5種の汚染細胞株におけるDB772処理後のウイルス遺伝子量(相対値),図2 5種の汚染細胞株をDB772存在下で継代培養した際のウイルス遺伝子量(相対値)の変化,図3 5種の汚染細胞株におけるDB772処理後の生細胞数および細胞形態,図4 DB772処理および細胞の限界希釈法の併用による汚染細胞株からのウイルス除去

その他

  • 予算区分 : 交付金、その他外部資金(畜産ニューテック協会助成金)
  • 研究期間 : 2022~2025年度
  • 研究担当者 : 西森朝美、岩崎新也、安藤清彦、松浦裕一
  • 発表論文等 : Nishimori A. et al. (2025) J. Vet. Med. Sci. 87:1149-1157