要約
開発した遺伝学的解析手法は、Salmonella Typhimurium(S. Typhimurium)のH抗原相変異率を解析できる。従来の血清学的解析法に比べて、高感度、省力的かつ迅速にH抗原相変異率を解析できる。
- キーワード : サルモネラ、鞭毛、H抗原相変異率、リアルタイムPCR系
- 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・細菌グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
Salmonella属菌は、菌体O抗原および鞭毛H抗原の組み合わせに基づいて血清型に分類され、その数は2600を超えることが知られている。特に、Salmonella Typhimurium(S. Typhimurium)を含む一部の血清型では、鞭毛H抗原に2種類の抗原相(第1相および第2相)が存在する。これらの抗原相は、単一の菌体内で可逆的に転換することができ、この現象は「相変異」と呼ばれる。従来、相変異が発生する頻度(相変異率)(図1)を算出する手法として血清学的手法が用いられてきたが、正確な算出に時間と労力がかかることが課題である。
一方、当グループは、過去に「Salmonella TyphimuriumにおけるH抗原の発現状態を定量できるリアルタイムPCR系」(2024年度研究成果情報)として、菌集団中のH抗原の発現状態(菌集団の中でどれくらいの割合の菌細胞がどちらの相のH抗原を発現しているのか)を定量的に評価する系を公表している。本研究では、当該リアルタイムPCR系を活用し、鞭毛H抗原の相変異率を遺伝学的に解析する手法を新たに構築することを目的とする。本手法により、従来の血清学的解析法と比較して、高感度、省力的かつ迅速に相変異率を評価することができる。
成果の内容・特徴
- 本遺伝学的解析法では、血清を用いて片方の抗原相に偏らせた菌液を継代した後、逆相を発現する菌の数を「H抗原の発現状態を定量できるリアルタイムPCR系」を用いて絶対的に定量することで相変異率を算出する(図1)。
- 本遺伝学的解析法は、菌の播種及びコロニー測定を必要としないため、従来の血清学的手法よりも省力的に相変異率を解析できる。加えて、作業工程が少なく、従来法に比べて解析に要する時間を約1日分短縮できる。
- 本遺伝学的解析法は一度に解析できる菌数が約106個と多いため、従来の血清学的手法よりも約10倍の感度で相変異率を解析できる(図2)。
成果の活用面・留意点
- 本解析法により相変異率の解析が効率化され、野外で分離されたS. Typhimurium菌株について網羅的に相変異率を解析することが可能になる。
- 2024年度の研究成果情報として公表した、「Salmonella TyphimuriumにおけるH抗原の発現状態を定量できるリアルタイムPCR系」と合わせることで、新たな菌性状の解析手法として、感染機序の解明に貢献できる可能性がある。
- 本解析法が2種類のH抗原を持つS. Typhimurium以外の血清型のSalmonella属菌に対しても応用できるかを今後検討する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2024~2025年度
- 研究担当者 : 中山ももこ、新井暢夫、小川洋介、楠本正博、江口正浩
- 発表論文等 : Nakayama M. et al. (2025) J. Microbiol. Methods 241:107362