約100年ぶりとなるミツバチ幼虫の細菌性病原体の発見

要約

国産ハチミツから分離されたPaenibacillus属菌3菌種はミツバチ幼虫に毒性を示す新規病原体である。中でもPaenibacillus melissococcoidesは既に国内の養蜂場に広く分布していることが示唆され、蜂群の健康状態に影響している可能性が示唆される。

  • キーワード : ミツバチ幼虫、Paenibacillus属菌、ハチミツ、新規病原体
  • 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・細菌グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ミツバチ幼虫の細菌性疾病としては、アメリカ腐蛆病およびヨーロッパ腐蛆病が知られており、どちらも国内での発生が認められている。それぞれアメリカ腐蛆病菌(Paenibacillus larvae)およびヨーロッパ腐蛆病菌(Melissococcus plutonius)により引き起こされ、いずれも家畜伝染病予防法で家畜伝染病に指定されている。腐蛆病を発症した蜂群は巣箱ごと焼却処分されるため、養蜂家の経済的損失が大きく、発症予防が重要となる。
当研究室では、腐蛆病予防に有効なプロバイオティクス菌を探索する過程で、偶然、幼虫に大量摂取させると、幼虫の健康を増進するどころか逆に幼虫を殺してしまう3種の菌(Paenibacillus sp. J27TS7、Paenibacillus azoreducens、Paenibacillus melissococcoides)を国産ハチミツの中から発見した。1900年代に腐蛆病の原因菌が発見されて以来、ミツバチ幼虫の細菌性病原体は報告がないため、もし本当にこれら3種の菌がミツバチ幼虫に悪影響を与えるのであれば、約100年ぶりとなるミツバチ幼虫の細菌性病原体の発見となる。そこで、本研究ではゲノム解析、ミツバチ幼虫への感染試験、病理組織学的解析など各種解析を通して上記3菌種の病原性を検証するとともに、全国から収集した国産ハチミツを材料に、国内の養蜂場における各菌の分布状況を調査する。

成果の内容・特徴

  • 本成果は、腐蛆病菌の発見以来約100年ぶりとなるミツバチ幼虫の細菌性の新規病原体の発見である。
  • 新規病原体であるPaenibacillus sp. J27TS7、P. azoreducens、P. melissococcoidesはいずれも、実験室内で人工飼育したセイヨウミツバチの幼虫に対して毒性を示すが、その程度(50%致死量 [LD50])や幼虫を殺すスピード(90%致死時間 [LT90])は菌種によって異なる。特にPaenibacillus sp. J27TS7(新規細菌種候補 : 種名未提唱)はアメリカ腐蛆病菌と同程度の毒性を有する(表1)。
  • 当研究グループで構築した、ハチミツから特異的かつ定量的にこれら3種の新規病原体を検出するリアルタイムPCR(表2)を用い、国内の養蜂家から収集したハチミツを材料に国内の養蜂場における新規病原体の分布状況を調査したところ、Paenibacillus sp. J27TS7およびP. azoreducensは検出率が低く、現時点では蜂群にとって大きな脅威にはならないと考えられる(表1)。一方、約1/4(23.55%)のハチミツからP. melissococcoidesが検出され、本菌が国内の蜂群に広く分布していることが示唆される(表1、図1)。
  • 国産ハチミツの検出率が高いことから幼虫への影響が最も懸念されるP. melissococcoidesは、幼虫の中腸内で発芽・増殖するものの、中腸上皮細胞を突破して体腔内に侵入することはない(図2)。同じPaenibacillus属に属するP. larvaeは、幼虫の中腸内で増殖後、中腸上皮を覆う分泌物の層(囲食膜)を分解し、中腸上皮細胞を突破して体腔内に侵入することから、P. melissococcoidesはP. larvaeとは異なる機序で幼虫の生存に影響を与えていると推察される(図2)。
  • ゲノム解析の結果、P. melissococcoidesはP. larvaeの既知の病原因子は持たないが、42個の病原因子候補遺伝子を保有することが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 新規病原体3菌種の病原因子は不明であり、幼虫での発症機序は解明されていない。
  • 本成果で構築した新規病原体検出リアルタイムPCRを用いることで、蜂群での汚染状況を把握することが可能である。
  • 本成果で発見された菌が、野外で蜂群にどのような影響を与えているのかについて明らかにするためには、今後、さらなる調査・研究を行う必要がある。

具体的データ

表1 新規病原体3菌種と腐蛆病菌の比較,表2 新規病原体3菌種を検出するプライマー,図1 日本におけるP. melissococcoidesの分布,図2 幼虫の病理組織学的解析

その他

  • 予算区分 : 文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2021~2025年度
  • 研究担当者 : 岡本真理子、中村佳子(生安研)、馬田貴史、原田真理子(生安研)、奥村香世(感染研)、髙松大輔
  • 発表論文等 : Nakamura K. et al. (2025) Virulence 16:2451170