要約
国内の黒毛和種および交雑種の子牛にみられた精巣上体炎5症例の病理組織学的解析結果は、病因がPasteurella multocida感染であることを示す。また、細菌学的解析により、分離されたP. multocidaは牛の上部気道および口腔に常在しているP. multocidaと同じ血清型・遺伝子型を示す。
- キーワード : Pasteurella multocida、精巣上体炎、黒毛和種、病理学的解析、細菌学的解析
- 担当 : 動物衛生研究部門・衛生管理研究領域・病理・生産病グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
精巣上体炎は多くの場合、細菌感染によって引き起こされる。慢性精巣上体炎では肉芽腫と高度の線維化が認められ、繁殖能力が低下し、完治は困難である。また、原因菌が雄牛の生殖器に常在することがあり、精液を介して雌牛が感染するリスクがある。原因菌の精巣上体への感染経路は、血行性ないし包皮からの上行性と考えられる。
P. multocidaは健康牛であっても上部気道および口腔から頻繁に分離され、日和見的に呼吸器疾患を中心に多様な疾患を引き起こす。P. multocidaによる精巣上体炎は小型反芻動物で知られているが、牛での報告は世界で2症例のみで、その特徴は十分に解明されていない。
本研究では雄子牛に認められた精巣上体炎5症例について、P. multocida感染が原因であることを病理学的および細菌学的手法を用いて解析し、本菌による精巣上体炎の特徴を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 検査した5症例は黒毛和種ないし黒毛和種とホルスタイン種の交雑種で、陰嚢の腫脹がみられる。陰嚢から摘出した精巣上体は片側または両側性に腫大し、精巣上体の頭部、体部、尾部は区別できず、多数の膿瘍と重度の線維化がみられる(図1)。
- 病理組織学的検査により、重度の線維化を伴う化膿性肉芽腫性精巣上体炎が認められる。免疫組織化学的検査で、病変に一致してP. multocidaの抗原を証明できる(図2)。
- 分離されたP. multocida菌株は血清型A、遺伝子型79および13に属し、これらの細菌学的特徴は牛の上部気道および口腔に常在する菌株と類似している。このことから、精巣上体炎由来P. multocidaは上部気道ないし口腔に常在する菌株と近縁であると推察される。
- 以上の結果から、精巣上体炎5症例はいずれもP. multocida感染が原因であり、上部気道および口腔に常在するP. multocidaが、同居牛間の「舐め合い」や「吸入」等により包皮から上行性経路を介して、偶発的に精巣上体に感染したことが示唆される。
成果の活用面・留意点
- 牛の精巣上体炎の鑑別診断ではP. multocidaを考慮する必要があり、黒毛和種における繁殖障害の潜在的な原因としてP. multocidaに関する更なる研究が必要である。
- 予防のためには、生殖器だけでなく、呼吸器疾患対策を含む衛生管理が求められる。また、適切な治療法と予防策を検討するために、さらなる症例の蓄積が重要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2017~2023年度
- 研究担当者 : 木村久美子、上野勇一、生澤充隆、田中省吾、難波かおり(岡山県)、寺尾彩(石川県)、寺谷知恵(兵庫県)、山本郁巳(兵庫県)、加地理紗(兵庫県)、玉鉾紗智(石川県)、水上智秋(岡山県)、橋田明彦(岡山県)
- 発表論文等 : Namba K. et al. (2025) Vet. Microbiol. 304:110445
doi:10.1016/j.vetmic.2025.110445