微生物の生死および成長を制御するシステム

要約

自然界には存在しない非天然アミノ酸を与えることにより、微生物の生死や成長を精密に制御するシステムである。動物用生ワクチン、物質生産に用いる微生物群の組成制御、およびプラスミドの除去・交換などに応用が期待できる。

  • キーワード:微生物工学、生物工場、ワクチン、分子生物学用試薬、生物学的封じ込め
  • 担当:生物機能利用研究部門・生物素材開発研究領域・機能利用開発グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

微生物を利用する全ての産業技術において、その生死および成長を制御する方法は、鍵となる重要な技術である。生物種によらず適用可能であり、かつ標的となる微生物のみを特異的に制御できる方法があれば非常に有用だが、従来技術には殆どない。そこで、本研究では、自然界に存在しない非天然アミノ酸を通常のアミノ酸に代わってタンパク質に取り込ませる遺伝回路を導入し、異常タンパク質を産生させて標的微生物の生理活動のみを抑制する原理に基づいて、その生死および成長を制御するシステムを構築する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、非天然アミノ酸に対応したtRNA遺伝子、およびそのtRNAに非天然アミノ酸を結合させる酵素の遺伝子を、標的微生物に導入して構成される。その非天然アミノ酸を与えると、tRNAに設計した任意のコドンに対応して不特定多数のタンパク質に導入される(図1)。その結果、異常なタンパク質が蓄積し、成長阻害を引き起こす。一方、普通の生物に対しては、本システムで使用するような非天然アミノ酸は、ほとんど無害である。したがって、特異的に標的微生物の成長および生死を制御することができる。
  • 選択したコドンによって、標的微生物に対する成長阻害の度合いは大きく異なる(図2)。また、導入した抗生物質耐性遺伝子のタンパク質が影響を受ける場合、死滅することもある。さらに、非天然アミノ酸の濃度に依存して、異なる度合いの効果を得ることができる。したがって、広い範囲で標的微生物の成長および生死を制御できる。
  • 標的微生物において、不特定多数のタンパク質が影響を受けるが、tRNAが認識するコドンをその同義置換で除くことにより、特定の遺伝子が影響されないように操作することも可能である。
  • 生物界に広く保存されているmRNAからタンパク質への翻訳過程を攪乱することを原理とするため、本法は生物種によらず適用できると推測される。

成果の活用面・留意点

  • 接種微生物の生死を制御して、最適な免疫誘導条件を得るという新しい原理に基づく動物用細菌生ワクチンの開発を、動物衛生研究部門との共同研究で進めている。
  • 物質生産に用いる微生物の成長制御への応用も有望である。近年、生化学反応の過程ごとに異なる微生物株を用いて、複数の菌種を混合して物質生産に用いる方法が注目されているが、菌種間のバランスをとるために精密な成長制御法が必要であり、本システムは解決法として有力である。
  • 微生物から保持しているプラスミドを除去・交換する技術は、多くのプラスミドを順次用いる多段階のゲノム編集や、目的とする形質を評価するためのプラスミドの一時的な利用などに必須な技術である。本システムは、プラスミドに座乗させることにより、プラスミドを維持した微生物を特異的に除去するカウンターセレクションに用いることができる(図3)。

具体的データ

図1 非天然アミノ酸による成長制御の原理,図2 非天然アミノ酸(ZK:Z-リジン)の成長阻害効果に対するコドン依存性,図3 本システムによるプラスミドを喪失した細菌の選抜

その他

  • 予算区分:交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間:2019~2021年度
  • 研究担当者:加藤祐輔
  • 発表論文等:
    • Kato Y. (2021) Life 11:920
    • Kato Y. (2021) Int. J. Mol. Sci. 22:11482
    • 加藤祐輔「カウンターセレクションマーカー」特願2021-015667(2021年2月3日)