有用物質産生に関わる新規遺伝子同定のためのカイコ網羅的遺伝子発現データ

要約

シルクタンパク質産生に重要な時期のカイコ幼虫における絹糸腺と他の主要組織の網羅的遺伝子発現データである。カイコ高精度ゲノム配列、ショウジョウバエやヒトの遺伝子との対応を含むデータであり、有用タンパク産生に関与する新規遺伝子の同定に活用できる。

  • キーワード:カイコ、遺伝子発現データ、絹糸腺、RNA-seqデータ
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫利用技術研究領域・昆虫デザイン技術グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カイコは絹糸生産に用いられる家畜化された昆虫であり、多量の絹糸(シルク)を産生する系統や高品質の絹糸を産生する系統を作製する研究が進められている。一方、1980年から2000年にかけてカイコで動物やヒト用の医薬品原薬となる有用タンパク質生産を行う方法が開発されている。カイコによる有用タンパク質産生は、遺伝子組換え技術により、シルクの構成成分となる2種類のタンパク質(フィブロインとセリシン)が合成される器官(絹糸腺)で、外来の有用タンパク質をカイコに作らせる技術である。この技術の普及には更なる生産性の向上が求められており、それにはカイコのゲノム情報や遺伝子の発現情報等の基盤情報が重要となる。

成果の内容・特徴

  • 本成果はカイコの様々な組織における遺伝子の網羅的な発現データであり、シルクの生成に重要な時期である幼虫(5齢3日目)の絹糸腺と他の主要組織(合計10種類)のRNA-seqデータで構成されている(図1)。
  • 本成果のデータには以前構築した高精度のゲノム配列データに、配列決定が困難だったセリシン遺伝子群の完全な塩基配列データを含む新規遺伝子の同定及び完全長塩基配列データから構成されている。
  • 本成果のデータには、組織サンプルの個体別(3個体)の発現量データが含まれている(図1)。異なる個体でも同じ組織サンプルでは遺伝子発現量のパターンが似ていることから、データの信頼性は高い。
  • 本成果のデータは2.で得られた新規遺伝子及び完全長塩基配列データをショウジョウバエやヒトの遺伝子情報と対応づけした表データを含む。ショウジョウバエやヒトは、これまでの研究による膨大な知見・データの蓄積がデータベースにあり、これらの知見はそれぞれの遺伝子情報に対してIDで対応づけされていることから、この表データを用いれば、カイコとショウジョウバエおよびヒトとの対応づけを行い、カイコの遺伝子にショウジョウバエやヒトのデータを付けることを可能にする(図2)。

成果の活用面・留意点

  • カイコや他の生物種の基礎から応用までの様々なフェーズの研究を促進することが期待される。
  • 全てのデータは公共のデータベースに公開されていて、この他の解析の際の関連ファイルも全て公式のデータレポジトリに公開しており、原著論文経由で、誰でも再利用が可能である。一方、高度なデータ解析技術を持たなくてもこれらのデータを利用できるように、カイコゲノムデータベースKAIKObase(https://kaikobase.dna.affrc.go.jp/)に収録し、データの検索・利用を可能にしている。
  • 本研究で得られた網羅的発現データを用いたデータ駆動型研究によって、各遺伝子間の関連性を解明し、有用タンパク質の生産を制御する遺伝子群を同定することで、従来よりも高効率に動物やヒト用の医薬品原薬などの有用タンパク質を産生するカイコの作出を目指す(図3)。

具体的データ

図1 発現データの取得,図2 ヒトやショウジョウバエとの比較,図3 本研究成果の活用例

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:蚕業革命による新産業創出プロジェクト)、内閣府(戦略的イノベーション創造プログラム(SIP))
  • 研究期間:2019~2021年度
  • 研究担当者:横井翔、坪田拓也、上樂明也、瀬筒秀樹、坊農秀雅(広島大)
  • 発表論文等:Yokoi K. et al. (2021) Insects 12:519 doi.org/10.3390/insects12060519