既存の抵抗性を打破する新興ウイルスに抵抗性を持つトマト系統

要約

Tomato brown rugose fruit virus(ToBRFV)は世界で広く使われている既存の抵抗性遺伝子が効かないトマトの新興ウイルスで、世界各地に急拡大している。ゲノム編集法を用いてToBRFVが増殖に利用しているトマトの遺伝子を破壊することにより、強力なToBRFV抵抗性を付与することができる。

  • キーワード:トマト、ウイルス病、トバモウイルス、ゲノム編集、感受性遺伝子
  • 担当:生物機能利用研究部門・作物生長機構研究領域・作物病害制御機構グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

トマトの栽培においては抵抗性遺伝子Tm-22を導入した品種が広く利用されているが、近年中東で発見されたトバモウイルス属のToBRRVはTm-22を有するトマトにも感染することが可能で、国際的なトマトの安定供給に対する大きな懸念材料となっている。研究チームはこれまでに、TOM1を欠損したシロイヌナズナでトバモウイルスが増殖できなくなることを明らかにしており、本研究ではこの知見に基づきゲノム編集によりトマトのTOM1遺伝子を破壊したToBRFV抵抗性トマトの開発を行う。

成果の内容・特徴

  • トマトのゲノムにはTOM1類似遺伝子が5個存在する。このうち、発現量のきわめて少ない1個を除いた、4個の遺伝子を同時に破壊することにより、トマトに強力なToBRFV抵抗性が付与される(図1)。
  • 4個のTOM1遺伝子が破壊されたトマトは、実験室の環境においては野生型トマトとほぼ同様に生育し(図1)、結果する(図2)。
  • 3個のTOM1類似遺伝子を破壊したトマトでは、どの組み合わせの変異をもつ植物でもToBRFVの増殖は遅延するものの完全には抑制されず発病に至るため、抵抗性付与には4個の遺伝子を破壊する必要がある。
  • tom1 4重変異トマトはToBRFV以外のトバモウイルス(タバコモザイクウイルス、アブラナモザイクウイルス)に対しても抵抗性を示す一方、トバモウイルス以外のウイルス(ジャガイモXウイルス、トマトアスパーミィウイルス)には感受性である。

成果の活用面・留意点

  • 突然変異集団からの選抜など、TOM1遺伝子の破壊にはゲノム編集以外の方法を使うこともできる。
  • ToBRFVはピーマン、トウガラシにも被害を与えているため、ピーマン、トウガラシのToBRFV防除にも本研究の知見が役立つことが期待される。
  • トバモウイルス属のウイルスにはウリ科植物に被害をもたらすスイカ緑班モザイクウイルスなど、抵抗性遺伝子が利用できないものも多い。TOM1遺伝子はわかっている限り全ての植物がもっているため、TOM1遺伝子の破壊によるトバモウイルス抵抗性の付与も様々な植物で有効な可能性がある。

具体的データ

図1 ウイルス非接種あるいはToBRFV接種後21日目のトマトtom1 4重変異株(左)あるいは野生型株(握).,図2 トマトtom1 4重欠損変異株(左)と野生型株(右)の果実.

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業:宿主因子遺伝子への変異導入によるウイルス抵抗性トマトの創出)
  • 研究期間:2018~2021年度
  • 研究担当者:石橋和大、石川雅之、加野彰人(タキイ種苗)
  • 発表論文等:
    • 石川ら「トバモウイルス抵抗性植物、トバモウイルス抵抗性トマト植物の生産方法、トマト植物におけるトバモウイルス抵抗性の付与方法、トバモウイルス抵抗性トマト植物のスクリーニング方法およびトマト植物におけるトバモウイルス抵抗性の検出方法」特許第6810946号(2020年12月16日)
    • Ishikawa M. et al. Plant Physiol. https://doi.org/10.1093/plphys/kiac103