ミノムシにとってのシルクの役割に新たな発見

要約

ミノムシは孵化時に卵から脱出する際にも自らのシルクを足場として利用する、すなわち、孵化時点からシルクの生産能力があることがわかった。また、ミノのない時期にも腹脚を歩行に用いないように進化していることも明らかとなった。

  • キーワード : シルク新素材、ミノムシ、バイオエコノミー、エコフレンドリー、吐糸行動
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・絹糸昆虫高度利用研究領域・新素材開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ミノムシシルクは天然繊維の中でも特に強度(弾性率、破断強度、およびタフネス)が高く、脱石油社会に貢献できる革新的バイオ素材として産業への利用が期待されている。また、ミノムシを殺さずに生きたまま採糸でき、採糸後のミノムシは繁殖に利用できることから、エコフレンドリーな天然シルク生産が可能となる。そこで、我々はミノムシから大量かつ効率的にシルクを生産・回収することを目的にミノムシの研究を進めている。本研究では、ミノムシの吐糸行動の網羅的観察によりミノムシの吐糸行動の意義を理解し、ミノムシシルクの回収技術の開発に繋げる。

成果の内容・特徴

  • オオミノガの孵化時から行動を観察したところ、卵から頭を出してすぐにシルクを吐き始めて足場を構築し始めた(図1)。
  • 幼虫はこの足場糸に脚を引っ掛けて卵から脱出した(図2)。
  • 孵化直後から幼虫は歩行するための足場糸を吐き続けていたことから、ミノムシは孵化時点でシルク産生能が高いと考えられる。
  • ミノを作る前の時期でも腹脚が歩行面に接地する様子は見られなかったことから(図3)、ミノムシの腹脚は歩行に用いる他の昆虫とは異なり、ミノの保持に特化するように進化したと思われる。

成果の活用面・留意点

  • オオミノガの幼虫ふ化直後から常にシルクを吐いて行動することが分かったことで、採糸の生産量拡大と効率化が期待できる。
  • ミノムシに負担をかけずに自然な状態で採糸する方法の開発に役立つ情報を得た。

具体的データ

図1 オオミノガの孵化時の様子,図2 孵化幼虫が足場糸に足を引っ掛けている様子,図3孵化直後の幼虫の歩行

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 山田信人、吉岡太陽、亀田恒徳、一木良子
  • 発表論文等 : Yamada et al. (2022) Entomol Sci. 25(4): e12528