要約
本手法は、アグー雌豚の卵巣から卵子を採取し、成熟培養・体外受精後に体外でアグー豚胚(受精卵)を作製し、受胚豚へ移植することにより、子豚を生産するものである。今後はガラス化保存(超低温保存)技術と組み合わせ、アグー豚をはじめ希少なブタ遺伝資源保存への貢献を目指す。
- キーワード : アグー豚、体外成熟、体外受精、胚移植
- 担当 : 生物機能利用研究部門・生物素材開発研究領域・動物モデル開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
豚熱などの感染症対策が講じられる一方で、アグー豚をはじめとする希少なブタ遺伝資源の保存が期待されている。成体保存では飼養コスト・人的要求が多大であるという問題があり、凍結精子による超低温保存(クライオバンク)が行われている。精子に加え、雌性生殖細胞(卵子)や受精卵・胚の保存技術の効率化、さらにそれらの資源からの個体発生・産子生産技術の開発が求められている。
そこで、本研究では、アグー豚の遺伝資源保存に関連する技術基盤の確立を目指す。アグー豚の卵巣より卵子を採取し、体外成熟・体外受精により、受精卵を作製し、それを受胚豚に移植することで子豚を生産する手法を確立する。
成果の内容・特徴
- 本システムでは、沖縄在来の希少品種であるアグー豚の子豚を生産するために体外胚生産および胚移植技術の適用を検討する。
- アグー雌豚の卵巣より卵子を採取し、成熟培養後にアグー豚の凍結精液を用いて体外受精を行い、体外胚生産を行う。得られた受精卵を西洋商用品種(ランドレース)の受胚豚に移植することで、受胚豚が妊娠し、アグー子豚が生産される(表1、図1)。
成果の活用面・留意点
- 本研究に用いたアグー豚の卵巣は外科的に摘出したものである。今後は、食肉用に出荷された雌個体由来の卵巣の活用が期待される。
- 西洋商用品種豚を受胚豚とすることで、貴重なアグー豚資源の損耗を防ぐことが可能となる。
- アグー雌豚由来の卵子および体外受精卵は、ガラス化凍結による超低温保存が可能である。しかし、凍結後、融解した体外受精卵の移植による産子作出は実証されていない。
- 今後、体外成熟・受精卵をガラス化保存して超低温保存を行うとともに、それらを加温して実際に移植実験を行い、子豚生産能を確認する。あわせて、採取直後の未成熟(未受精)卵のガラス化保存の可能性についても検討する。
- 本技術は、海外の希少品種豚の遺伝資源保存にも適用可能である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 地方委託、沖縄県(沖縄アグー豚安定供給体制確立事業 テーマ3:沖縄アグー豚受精卵の移植)
- 研究期間 : 2017~2022年度
- 研究担当者 : 菊地和弘、伊佐常暢(沖縄県畜研セ)、ソムファイ タマス、親泊元治(沖縄県畜研セ)、普照恭多(沖縄県畜研セ)、當眞嗣平(沖縄県畜研セ)、鈴木直人(沖縄県畜研セ)、金子浩之、片桐慶人(沖縄県畜研セ)
- 発表論文等 : Isa T. et al. (2022) Anim. Sci. J. 93: e13685