要約
豚の様々な組織から単離したマクロファージの不死化細胞株を作製し、アフリカ豚熱ウイルスの解析に利用する。組織ごとに特有の微小環境を反映したin vitro評価系を構築でき、ウイルス株特異的な宿主免疫細胞との相互作用解析にも有効である。
- キーワード : 豚組織マクロファージ、不死化細胞株、アフリカ豚熱ウイルス、in vitro評価系
- 担当 : 生物機能利用研究部門・生物素材開発研究領域・動物モデル開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
動物の主要な自然免疫担当細胞であるマクロファージは、体内のあらゆる組織に普遍的に存在するが、それぞれの組織の微小環境の違いに応じて異なる特徴や機能を示す。我々は、一般的には増殖能が極めて低いとされるマクロファージを不死化(株化)する独自の手法を確立し、豚を対象として、これまでに様々な組織に由来するマクロファージを株化することに成功している。また、豚の腎臓に由来するマクロファージから作出した不死化細胞株(IPKM細胞)がアフリカ豚熱(ASF)の病原体であるASFウイルス(ASFV)に高い感受性を有し、ASFの研究や診断あるいはワクチンの開発において有用なツールになり得ることを明らかにしている。
本研究では、豚における様々な感染症の発症と関わりが深いとされる肺や小腸のマクロファージの病態形成への寄与を調べることを目標に、これらの組織に由来するマクロファージの不死化細胞株を作製して、ASFV感染機序の解析におけるin vitro評価系としての有用性を検証する。
成果の内容・特徴
- 子豚の肺と豚胎子の小腸から組織マクロファージを単離して、それぞれの組織に由来する不死化細胞株(肺:IPLuM細胞、小腸:IPIM細胞)を作製する。
- IPLuM細胞とIPIM細胞はIPKM細胞と同様にマクロファージのマーカーであるIba1、CD172a、CD203aを強く発現するが、CD163、CD169及び主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子(MHC-II)の発現パターンは細胞株ごとに異なる(表1)。
- ASFV株(アルメニア07株、ケニア05/Tk-1株、エスパーナ75株)は、増殖に用いる宿主細胞株(IPKM細胞、IPLuM細胞、IPIM細胞)を問わず、類似した経時的なウイルス増殖が観察されるが、エスパーナ75株はアルメニア07株およびケニア05/Tk-1株より検出されるウイルス力価が低い(図1)。
- ウイルス感染に伴って現れる細胞変性効果(CPE)は、IPKM細胞ではアルメニア07株、ケニア05/Tk-1株、エスパーナ75株ともに強いが、一方、IPLuM細胞、IPIM細胞では株依存的に異なり、特にエスパーナ75株におけるCPEが微弱である(表2)。
- 異なる組織に由来する3種類の豚マクロファージ不死化細胞株は、いずれもASFV野外株に感受性を持ち、ウイルスの増殖を支持するが、感染に対する応答性はウイルス株によって異なることが示唆される。
成果の活用面・留意点
- 様々な組織に由来する豚マクロファージの不死化細胞株を樹立することで、組織ごとに異なる特有の微小環境を反映したin vitro評価系が構築でき、ASFVをはじめとする多様な豚ウイルスについて、病原体と宿主免疫細胞との相互作用の解析に活用できる。
- 作製した不死化細胞株の継代培養中の性質の安定性については、定期的な確認が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(安全な農畜水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:官民・国際連携によるASFワクチン開発の加速化)、生物系特定産業技術研究支援センター(イノベーション創出強化推進事業・基礎研究ステージ:豚抗病性改善指標のin vitro評価系の創出)
- 研究期間 : 2019~2022年度
- 研究担当者 : 竹之内敬人、舛甚賢太郎、鈴木俊一、原口清輝、北村知也、國保健浩、上西博英
- 発表論文等 :
- Takenouchi T. et al. (2022) Front. Vet. Sci. 9:919077
- Takenouchi T. et al. (2022) Front. Vet. Sci. 9:1058124