細菌性呼吸器感染症に対する豚抗病性改良DNAマーカーの効果

要約

NOD2およびTLR5、NLRP3遺伝子の特定の遺伝型は、一般農場における豚胸膜性肺炎あるいはマイコプラズマ性肺炎に対して抑制効果を示し、細菌性の呼吸器感染症の被害を軽減する抗病性改良DNAマーカーとして利用可能である。

  • キーワード : 豚、抗病性、DNAマーカー、豚胸膜性肺炎、マイコプラズマ性肺炎
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・生物素材開発研究領域・動物モデル開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

豚では肺炎等をもたらす多くの細菌感染症が存在し、生産性を低下させる要因となっている。他のウイルス等との共感染により重篤化し、肥育豚の成長遅延等により1,000円/頭の損失となる。細菌感染症への対策としての抗菌剤の多用に対しては、薬剤耐性菌の出現リスクの問題から制限する方向にあり、豚自身の遺伝的な抗病性の改良による生産性の改善が強く求められている。
担当者らは、病原体に由来する様々な分子の認識に関与し、感染初期の免疫応答において重要な役割を担っているパターン認識受容体(PRR)に着目し、PRR遺伝子の塩基配列多型が分子機能や豚の抗病性に与える影響について解析を行っている。これまでに、PRRの一つであるNucleotide binding oligomerization domain 2(NOD2)で、遺伝子コード領域の2197番目がシトシン(C)となる機能亢進型をホモ型として持つ豚は、豚サーコウイルス2型(PCV2)の浸潤により斃死が多発している豚群中で、死亡率が有意に低くなることを示している。本研究は、一般農場における豚の細菌性の呼吸器感染症(豚胸膜性肺炎、マイコプラズマ性肺炎)に対するPRR遺伝子内の配列の違い(多型)の影響を明らかにするものである。

成果の内容・特徴

  • 一般農場で飼養されている三元交雑豚の集団で、呼吸器系の感染症アクチノバシラス プルロニューモニエ(Actinobacillus pleuropneumoniae、App)を病原体とする豚胸膜性肺炎、マイコプラズマ ハイオニューモニエ(Mycoplasma hyopneumoniae、Mhp)を病原体とするマイコプラズマ性肺炎の重篤度を、と場における肺病変を観察することにより評価し、細菌由来の物質の認識能や、免疫反応の増強に関係するPRR遺伝子の遺伝子多型(表1)との関連性を検討する。
  • 細菌の細胞壁成分の認識に関わるPRRであるNOD2の遺伝子コード領域の2197番目が機能亢進型(C)である遺伝型を持つ豚は、機能低下型(A:アデニン)しか持たない豚と比較して、豚胸膜性肺炎の重篤度が低下する。細菌の鞭毛タンパク質の認識に関わるPPRであるToll-like receptor 5(TLR5)の遺伝子コード領域の1205番目についても、機能低下型(T:チミン)である遺伝型を持つ豚は、機能向上型(C)しか持たない豚と比較して豚胸膜性肺炎の重篤度が上昇する(図1)。
  • 細胞の炎症応答と関連するPRRであるNucleotide binding oligomerization domain containing-like receptor family pyrin domain containing 3(NLRP3)において、遺伝子コード領域の2906番目が機能亢進型(G:グアニン)である遺伝型を持つ豚は、機能低下型(A)しか持たない豚と比較して、マイコプラズマ性肺炎の重篤度が低下する(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究は、すでに細胞を用いた研究等で効果が検証されているPRR遺伝子多型が、一般農場における豚の細菌性疾患に対する感受性に影響を及ぼすことを明らかにするものであり、PRR遺伝子多型の豚の抗病性改良DNAマーカーとしての有用性を示している。
  • 豚の呼吸器感染症の重篤度等との関連性を示すPRR遺伝型の違いを判定することにより、個々の豚の抗病性を評価できるようになることが期待される。また、感染症重篤度の低減と関連性を示す遺伝型を保有する豚を選抜することで、抗病性に優れた豚群の作出が期待される。
  • 本研究で示されるNOD2、TLR5およびNLRP3における遺伝型の違いの呼吸器感染症に対する効果は、AppおよびMhpの浸潤状況が激しい際に顕著に観察される。これらの遺伝型の分布は豚の品種および集団によって大きな違いがあり、活用に際しては対象となる豚群における分布に留意する必要がある。また、本研究で示される呼吸器系感染症以外の疾患に対する効果についても幅広く検証が行われることが望まれる。

具体的データ

表1 豚でPRR遺伝子の機能に影響を及ぼすことが明らかとなっている遺伝子多型の例,図1 App浸潤による豚胸膜性肺炎が確認される農場由来の豚の、と場における肺病変スコア(最小0→最大4で示す)とNOD2、TLR5の遺伝型との関連,図2 Mhp浸潤によるマイコプラズマ性肺炎が確認される農場由来の豚の、と場における肺病変スコア(最小0→最大4.09で示す)とNLRP3遺伝型との関連

その他

  • 予算区分 : 交付金、その他外部資金(日本中央競馬会畜産振興事業)、生物系特定産業技術研究支援センター(イノベーション創出強化研究推進事業)
  • 研究期間 : 2018~2022年度
  • 研究担当者 : 上西博英、鈴木香澄(岐阜県)、新開浩樹、吉岡豪(岐阜県)、松本敏美、竹之内敬人、田中純二(岐阜県)、清水雅範(岐阜県)、北澤春樹(東北大)
  • 発表論文等 : Suzuki K. et al.(2022)Animals 12:3163 doi:10.3390/ani12223163