コナガのシアントラニリプロール剤抵抗性を判別する遺伝子診断法

要約

アブラナ科野菜の重要害虫であるコナガのシアントラニリプロール剤抵抗性を判別する遺伝子診断法である。本手法を活用して野外コナガ個体群の抵抗性モニタリングを行うことにより、抵抗性拡大の回避が期待される。

  • キーワード : コナガ、薬剤抵抗性、シアントラニリプロール剤、リアノジン受容体、マルチプレックスPCR法
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・昆虫利用技術研究領域・昆虫デザイン技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

アブラナ科野菜の重要害虫であるコナガPlutella xylostellaは、害虫防除に広く利用されているジアミド剤を含む複数の薬剤に対して抵抗性が発達しており、防除が難しい。このため、コナガの防除を効果的に行うために、コナガに効果がある薬剤に対する抵抗性拡大を回避する対策が求められている。後発(2014年に農薬登録)のジアミド剤であるシアントラニリプロール剤は、先発(2010年以前に農薬登録)のジアミド剤に対して抵抗性が発達したコナガに対しても高い防除効果を示すが、近年、国内外のコナガで抵抗性個体が確認されており、今後の全国的な抵抗性拡大の可能性が危惧されている。シアントラニリプロール剤に対するコナガの抵抗性は細胞のカルシウムイオンチャンネルであるリアノジン受容体遺伝子の4790番目のアミノ酸がイソロイシンからリシンに置換した一アミノ酸置換(I4790K変異)が主要因である(図1)。
そこで本研究では、コナガの抵抗性対策の実現に必要となるシアントラニリプロール剤抵抗性を簡便にモニタリングするための遺伝子診断法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 抵抗性の原因となるリアノジン受容体遺伝子上のI4790K変異箇所(図1)を診断対象とする。抵抗性遺伝子(I4790K変異あり)と感受性遺伝子(変異なし)をそれぞれ特異的に検出するプライマーを用いた2回のマルチプレックスPCRにより抵抗性遺伝子と感受性遺伝子の有無を検出できる(図2)。
  • 検出した抵抗性遺伝子と感受性遺伝子の組み合わせにより遺伝子型を決定する(図2)。遺伝子型は、R/R(抵抗性ホモ型)、R/S(抵抗性感受性ヘテロ型)、S/S(感受性ホモ型)のいずれかとなる。R/Rの個体が現場で抵抗性個体として出現するが、R/Sの個体は抵抗性を潜在的にもつため、遺伝子型を決定してR/RおよびR/Sの個体の出現頻度を把握することで、抵抗性拡大を回避する対策を効果的に行うことが可能となる。
  • フェロモントラップで採集したコナガ雄成虫、圃場から直接採集したコナガ成虫または幼虫(四齢)を診断可能である。コナガ128頭(成虫48頭と四齢幼虫80頭)の診断結果における抵抗性遺伝子と感受性遺伝子の検出感度(検出対象の遺伝子をもつ陽性サンプルが正しく陽性と検出される割合)はそれぞれ94%と93%であり、検出特異度(検出対象の遺伝子をもたない陰性サンプルが正しく陰性と検出される割合) は、91%と75%である。

成果の活用面・留意点

  • 本法を用いて野外のコナガ個体群の抵抗性遺伝子頻度を調べることにより、シアントラニリプロール剤抵抗性発達の程度を判定することができる。抵抗性遺伝子頻度の調査に必要な診断個体数および抵抗性発達の程度(リスクレベル)の判定については、"薬剤抵抗性農業害虫管理のためのガイドライン案(2019年3月公開)"におけるコナガの判断基準案(p.47)が参考になる。判定結果に基づいてシアントラニリプロール剤の使用頻度や代替薬剤の選択等を適切に管理することで、シアントラニリプロール剤抵抗性の拡大回避につながることが期待できる。
  • 遺伝子診断に用いるゲノムDNAの抽出は、TE-Tバッファを用いて虫体を潰さずに行う簡易的な手法と、虫体を潰して精製する手法のいずれかの手法を選択可能である。
  • 診断に用いるPCR酵素は、EmeraldAmp MAX PCR Master Mix(タカラバイオ)が推奨される。

具体的データ

図1 コナガのシアントラニリプロール剤抵抗性遺伝子診断法のターゲットとなるI4790K変異,図2 マルチプレックスPCR法によるシアントラニリプロール剤抵抗性遺伝子と感受性遺伝子の検出

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(次世代ゲノム基盤プロジェクト : ゲノム情報等を活用した薬剤抵抗性管理技術の開発)
  • 研究期間 : 2019~2022年度
  • 研究担当者 : 上樂明也、桑崎誠剛、北林聡(長野県野菜花き試験場)
  • 発表論文等 :