葉面への二本鎖RNA局所投与によるアザミウマ類の防除

要約

二本鎖RNAを植物の葉に塗布することで、アザミウマ類の発育や食害を阻害する方法である。害虫の遺伝子を標的にした二本鎖RNAを葉面に一ヶ所傷をつけて塗布することで葉全体に防除効果が出現するため、環境に影響が少ない害虫防除が可能になる。

  • キーワード : RNA干渉、害虫防除、アザミウマ、二本鎖RNA、局所投与
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・昆虫利用技術研究領域・昆虫制御技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

農業害虫の防除は化学農薬に依存しているが、農薬が効かない抵抗性害虫系統の出現や環境負荷などが問題となっており、化学農薬のみに依存しない新しい防除技術の開発が求められている。RNA干渉は特定の遺伝子の塩基配列を持つ二本鎖RNAを生物に投与して、その遺伝子の発現を抑制する方法である。この技術を利用すれば、狙った害虫の遺伝子発現だけを抑制することで発育や食害を阻害し、周辺生物に影響を及ぼさない環境にやさしい防除が可能になる。また、化学農薬とは作用が異なるため、化学農薬の抵抗性を獲得した害虫系統も防除できる。しかし、RNA干渉を利用する方法は、葉面に大量に散布してもアザミウマなどの吸汁性害虫には効果が低い。これは、吸汁性害虫は口針を植物に刺して汁液などを吸うため、葉面に付着した二本鎖RNAをほとんど摂取しないためと考えられる。
そこで、本研究では二本鎖RNAを葉全体ではなく、局所投与することで、アザミウマ類の発育や摂食を阻害する効率的な技術の開発を目指す。

成果の内容・特徴

  • きゅうりの葉表面に紙やすりでつけた傷(図1 Aの矢印)に二本鎖RNA混合液を塗布し(局所投与)、ミナミキイロアザミウマ幼虫を葉につけると、対照区(オワンクラゲの緑色蛍光遺伝子EGFP)の配列と一致する二本鎖RNAを含む混合液を塗布)では葉全体が食害されるが、害虫の発育を阻害する遺伝子(IAP1,2)の塩基配列を持つ二本鎖RNAを含む混合液を塗布した試験区では、葉全体の食害が阻害される(図1 B)。
  • 害虫の発育を阻害する遺伝子(IAP1,2)に加え、二本鎖RNAを分解する酵素遺伝子(RNase1,2)と二本鎖RNAの細胞内への取込みを阻害する脂肪酸合成酵素遺伝子(FASN)の塩基配列を持つ二本鎖RNAを混合し、葉に着けた傷に投与するとRNA干渉による効率が向上する(図2 A)。また各二本鎖RNA量が5 ng以上の混合液で阻害効果がある(図2 B)。
  • このことから、害虫の発育を阻害する遺伝子に加え、害虫の体内でRNA干渉の効率を阻害する遺伝子を標的とした二本鎖RNAの混合液を投与すること、および葉に傷をつけて塗布することが防除効果の向上に重要であると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 一部のアザミウマ系統など化学農薬が効かない吸汁性害虫は、二本鎖RNAの局所投与により化学農薬が効かない虫を防除することが可能になる。
  • 葉に傷をつけずに二本鎖RNAを植物内に投与する方法を開発すれば、さらに簡便な防除が可能になる。

具体的データ

図1 きゅうり葉面傷口への二本鎖RNA混合液の局所投与によるアザミウマの食害軽減効果,図2 二本鎖RNA混合液の局所投与によるアザミウマの成虫化阻害効果

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2016~2020年度
  • 研究担当者 : 田中良明
  • 発表論文等 : 田中「植物体を食害する有害節足動物を防除する方法及びキット」特開2022-135668(2022年9月15日)