ニワトリを加害するワクモの共生細菌叢

要約

ワクモの共生細菌叢を解析し、駆除剤の作用点となり得る共生細菌を特定した。共生細菌除去に有効な薬剤探索を進めることにより、既存殺虫剤とは異なる作用機序を持つワクモ駆除剤の開発が期待される。

  • キーワード : 養鶏、ダニ、防除剤、共生微生物、必須共生
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・昆虫利用技術研究領域・昆虫制御技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ダニの一種であるワクモ(Dermanyssus gallinae)(図1)は、ニワトリの血液を吸って生活しており、しばしば養鶏場で大繁殖する。ワクモの吸血によるニワトリのストレスは、産卵数の減少を引き起こす原因などとなり、経済的に大きな被害(例えばヨーロッパだけでワクモに起因するニワトリの被害額は2億ユーロ以上)を与えている。日本国内の養鶏場では、殺虫剤によるワクモの駆除を行っているが、ワクモの殺虫剤に対する抵抗性の発達が問題となっている。ニワトリの血液はワクモの成育に必要な栄養の一部が不足しているため、ワクモは体内に共生する細菌が作った栄養に頼っている。そこで、本研究課題では、従来の殺虫剤とは異なる作用機序を持った化学薬剤をスクリーニングするために、ワクモの共生細菌叢から、ワクモの成育に必要不可欠な共生細菌を特定する。

成果の内容・特徴

  • 日本国内16道県の養鶏場18カ所から収集した計144個体のワクモの細菌のバーコード配列(リボソームRNAの一部)からワクモに感染する細菌として(感染率の高い順に)Bartonella属細菌(AとB)、CardiniumWolbachiaTsukamurellaMicrococcusRickettsiellaが見つかる(図2)。Bartonella属Aのみが全ての個体で見られることから、Bartonella属細菌Aがワクモの必須共生細菌であり、ワクモ駆除剤の作用点となり得る。
  • ヨーロッパのワクモが持つBartonella group Aと今回得られたBartonella属細菌Aのバーコード配列はとても類似している(図3)。すなわち、Bartonella属細菌Aをターゲットとした化学薬剤はヨーロッパなど海外でも幅広い地域で適用できることを示唆している。

成果の活用面・留意点

  • ワクモに共生するBartonella属細菌をターゲットとした化学薬剤はワクモの防除に有効であると見込まれるため、この細菌を除去できる化学薬剤のスクリーニング技術を開発し、探索することにより、ワクモ駆除剤の開発につながると考えられる。
  • 栄養が偏った餌(動物の血液や植物の篩管液など)を餌とする昆虫やダニでは、共生細菌による栄養の供給が生存に欠かせないため、共生細菌による栄養供給が必要な他の害虫種にも応用することで、共生細菌を標的とした薬剤の適用範囲が拡大できると期待される。

具体的データ

図1 ワクモ(成虫)の写真,図2 バーコード配列(リボソームRNAの一部)を指標としたワクモの共生細菌叢の解析,図3 ワクモに感染しているRizobiales科細菌の系統解析

その他

  • 予算区分 : 交付金、資金提供型共同研究
  • 研究期間 : 2018~2022年度
  • 研究担当者 : 西出雄大、杉本貴史、陰山大輔、渡部賢司、江上浩(住化エンバイロメンタルサイエンス)
  • 発表論文等 : Nishide Y. et al. (2022) Frontiers in Microbiology 13:1031535 doi:10.3389/fmicb.2022.1031535