作物のゲノム配列をデザイン通りに改変する技術

要約

ゲノム編集酵素と鋳型DNAをパーティクルガンを用いて茎頂組織に送達し、相同組換えを利用してゲノムの配列を鋳型配列に書き換えたゲノム編集個体を獲得する技術である。植物個体を直接改変する技術であるため、細胞培養と再分化が困難な多くの実用作物品種に適用できる。

  • キーワード : ジーンターゲティング、相同組換え、ノックイン、コムギ、iPB (in planta Particle Bombardment)
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・作物ゲノム編集研究領域・ゲノム編集作物開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ゲノム編集はゲノム情報を書き換える技術として注目されているが、現在の技術では、指定部位に変異を導入できるものの、ゲノム配列を設計通りに精密に書き換えることは困難である。実用品種に効率的に有用形質を導入するには、精密かつ自在なゲノム改変を可能にする技術の開発が求められる。それには、外部から供給した鋳型DNAによりゲノムを書き換えるジーンターゲティング(ノックイン)技術が有望であるが、植物においては実用的な技術が確立されていない。本研究では、農研機構等が独自に開発したiPB法(https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/078186.html)により、ゲノム編集酵素と鋳型DNAを共導入することで、実用的な効率で、精密かつ自在なゲノム改変を可能にする技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 鋳型DNAとゲノム編集酵素(Cas9 RNP)を金粒子にコーティングし、顕鏡下で露出させた小麦種子胚茎頂にパーティクルガンを用いて導入する。胚から成長させた植物の第5葉を用いて変異を含む個体をPCRで選抜し、次世代種子を得る(図1a)。
  • 鋳型は、左右の相同性アームとしてそれぞれ150bp及び75bpの断片を用い、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein、以下GFP)遺伝子をその間に挟み込んだものを用いる(図1b)。
  • 当代(E0世代)第5葉を用いた変異解析で、GFP遺伝子の挿入が検出された個体をPCRで選抜する。検出断片のシーケンス解析から、デザイン通りに精密にノックインされた個体を選抜する。
  • 選抜個体から種子を回収し、次世代の遺伝型を解析すると、ノックイン型変異を持つ系統(B271,B364)が得られる(図1c)。
  • 導入実験の条件を検討することで、変異導入効率をE0(処理当代)で0.86%, E1(次世代)で0.34%にまで高めることができる(表1の実験II)。計算上は、処理茎頂300個につき1系統のノックイン系統が取得できる。

成果の活用面・留意点

  • 本技術は培養を使わないため、基本的には品種に依存しない。コムギの全品種に適用可能と考えられる。
  • 種子胚茎頂や腋芽茎頂を用いることで、コムギ以外の広範な作物種に適用できる可能性がある。
  • 本技術はiPB法の応用技術であり、国内における商業利用には農研機構とカネカ(株)からの許諾が必要である。
  • 自家植物に由来する任意の変異の導入も可能であり、その場合はいわゆる「セルフクローニング」、「ナチュラルオカレンス」として組換え作物としての規制を受けないゲノム編集作物となる可能性があるが、開発にあたっては規制当局との調整が必要となる。

具体的データ

図1.iPB法を用いたin plantaジーンターゲティング法の開発,表1.iPB法を用いたGFP遺伝子のノックイン実験の条件と結果

その他

  • 予算区分 : NIP
  • 研究期間 : 2020~2021年度
  • 研究担当者 : 今井亮三、Weifeng Luo、鈴木麟太郎
  • 発表論文等 : Luo et al. (2023) Plant Biotechnol.J. 21, 668-670,doi:10.1111/pbi.13984.