イネもみ枯細菌病の発症を抑制する新たな内生細菌

要約

イネ種子から単離した植物内生細菌パントエア ディスペルサ(Pantoea dispersa) BB1株は、種子伝染性の重要病害であるイネもみ枯細菌病の発症を抑制できることから、新たな微生物農薬のシーズとして期待できる。

  • キーワード : イネ、イネもみ枯細菌病、内生細菌、微生物農薬
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・作物生長機構研究領域・作物環境適応機構グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

種子伝染性の植物病原細菌バークホルデリア グルメ(Burkholderia glumae、以下病原菌)が原因となるイネもみ枯細菌病は、イネの幼苗に腐敗症を引き起こし、収量減と品質低下をもたらす重要病害である。地球温暖化の進展に伴い、世界的に発生拡大が危惧されており、我が国でも被害拡大が報告されている。また、本病害に対する市販の抵抗性品種は存在しないため、現在は殺菌剤を用いた防除が主流であるが、薬剤耐性菌の発生が問題となっている。そのため、「もみ枯細菌病の防除技術の開発」は農林水産省が公表している現場ニーズを収集したデータ(https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/g_needs/)において解決すべき課題として2016(平成28年)度から2022(令和4年)度まで連続してあげられている。
そこで、本研究では、環境負荷が低く耐性菌が出現しにくい病害防除法である微生物農薬に着目し、もみ枯細菌病の発症を効果的に抑制できる微生物シーズを探索する。

成果の内容・特徴

  • イネ種子に病原菌が感染すると内生細菌叢が変化し、病原菌が分泌する毒素に耐性を示すパントエア(Pantoea)属とパエニバシラス(Paenibacillus)属細菌の割合が増える。
  • パントエア(Pantoea)属とパエニバシラス(Paenibacillus)属の細菌株のうち、パントエア ディスペルサ(Pantoea dispersa) BB1株(以下BB1株)は、イネもみ枯細菌病の発症を顕著に抑制する活性を持つ(図1)。
  • イネもみ枯細菌病菌に対するBB1株の抗菌活性は、BB1株の培養上清に存在し、BB1株は病原菌に対する抗菌成分を分泌していることを示す(図2)。

成果の活用面・留意点

  • BB1株は、イネもみ枯細菌病に対する微生物農薬のシーズとして、化学農薬に頼らない低環境負荷の防除技術の開発につながる。
  • BB1株が培養液中に分泌する抗菌成分の実体が今後明らかになることで、生菌に依存せず、保存性や有効濃度の調節が容易な新たな天然化合物農薬として化学農薬低減につながる。

具体的データ

図1 BB1株はイネもみ枯細菌病による苗の生育不良を抑制する,図2 BB1株の培養上清は病原菌の増殖を抑制する

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2020~2022年度
  • 研究担当者 : 香西雄介、秋本千春
  • 発表論文等 :
    • 秋本千春、香西雄介 「新規菌株及びそれを含む組成物並びにイネ科植物の細菌性病害の防除剤」特開2022-140304 (2022年9月26日公開)
    • Kouzai Y, Akimoto-Tomiyama C. (2022) Life 12(6):791