要約
カイコ繭層の水溶液調製法を高度化した。本手法により繭タンパク質を、①低濃度の臭化リチウム水溶液で、②100mg/ml程度の高濃度で、③ほぼ完全に溶解することが可能になり、素材用及び試験研究用のシルク水溶液がより簡便で低コストな調製が期待できる。
- キーワード : 繭層、シルク、水溶液、マルチビーズショッカー
- 担当 : 生物機能利用研究部門・絹糸昆虫高度利用研究領域・新素材開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
シルクの活用研究では、以下3点がボトルネックとして存在する。すなわち、①繭タンパク質の解析(特にSDS-PAGE)において、臭化リチウムの影響により希釈・透析が必要となるが低濃度化が問題であること、②繭層の完全溶解が難しく成分選択的な溶け残りが生じる恐れがあること、③繭タンパク質の素材化のための水溶液調製において、溶け残り・透析後の析出が生じ、「不均一性」・「ロット間差」を生み出すこと、である。また、これらの問題は、繭層(フィブロイン+セリシン)の溶解で顕著だが、精練糸(フィブロイン)やセリシンの溶解においても潜在的な問題として存在する。
そこで本研究では、解決策として、①シルクを高濃度で溶解すること、②臭化リチウム濃度を可能な限り低濃度とすること③すべてのタンパク質が完全に可溶化していること、を満たす、シルク水溶液化の方法の検討を行う。
成果の内容・特徴
- 本手法は、既報のシルク水溶液の調製法1,2)を高度化したものであり、シルク水溶液の調整法において、pH9に調製した濃厚臭化リチウム水溶液でシルク水溶液を調製する方法である。従来のスターラーを用いた攪拌法から、強力な攪拌装置である「マルチビーズショッカー」に変更することで達成される(図1)。
- 目標シルク水溶液濃度を20mg/mlとした場合において溶解に必要な臭化リチウム水溶液濃度は、従来は8M以上が必要だったが、7M以上のLiBr水溶液を用いればほぼ完全にシルクの溶解が可能となる(図2)。
- 高濃度シルク水溶液の調製においては、従来は30-50mg/ml程度が限界であったが、100mg/ml程度までの高濃度シルク水溶液の調製が可能であった。また、完全溶解でなければ、140mg/ml程度までの高濃度シルク水溶液の調製が可能となる(表1)。
成果の活用面・留意点
- 繭層の溶解に限らず、広くシルクタンパク質(フィブロイン・セリシン)の溶解に応用できる。
- マルチビーズショッカーを用いなくても、容器内にタングステンビーズなどを封入し、水平攪拌することでインキュベーターシェーカー等による溶解が可能である。
- 攪拌子の摩耗によるコンタミネーション、摩擦熱による発熱が生じるので注意を要する。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2012~2023年度
- 研究担当者 : 小島桂
- 発表論文等 :
- 村上ら(2012)日本シルク学会誌、20:89-94
- 小島ら(2013)日本シルク学会誌、21:45-47
- 小島、佐藤(2023)日本シルク学会誌、31:83-87