要約
ブタ未成熟卵のガラス化ではDNA二本鎖切断により胚発生率が有意に低下するが、ガラス化受精卵では新鮮卵と同等である。ガラス化後の受精卵のゲノム編集では胚盤胞発生率とゲノム編集効率の低下は見られず、ゲノム編集ブタ作出においてガラス化保存受精卵は有用である。
- キーワード : ブタ、受精卵、ガラス化保存、DNA損傷、ゲノム編集
- 担当 : 生物機能利用研究部門・生物素材開発研究領域・動物モデル開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ブタ卵子の超低温ガラス化保存は、改良増殖や遺伝資源の保存にとって非常に重要な技術である。一方で、加温後の胚発生率の低下とその原因においては不明な点が多く残されており、医学研究で急速に重要性が高まっているゲノム編集技術を用いたモデルブタ作出のための卵子提供手段として利用されるには至っていない。この原因が明らかになれば、ヒトを含む様々な動物におけるガラス化保存技術の改良に繋がるのみならず、計画的に必要数の受精卵を用意できるため、モデルブタ作出のためのバイオリソースとして利用可能となる。そこで本研究では、ガラス化保存がもたらすDNA損傷が卵子のステージにどのように依存しているのかを明らかにするとともに、ガラス化保存後のブタ卵子を用いたゲノム編集胚を作出し、バイオリソースとしての利用価値を見出す。
成果の内容・特徴
- ブタ未成熟卵のガラス化はDNA二本鎖切断を引き起こす(図1写真下)。DNA修復遺伝子RAD51発現の増加が認められるが(図1グラフ左)、胚盤胞発生率は有意に低下する(図1グラフ右)。これらは受精卵のガラス化では観察されず、したがってその胚盤胞発生率はコントロールと同程度である。
- ガラス化した受精卵を加温後にエレクトロポレーション法でゲノム編集を実施した場合の胚盤胞発生率は、コントロールと同程度である(図2)。
- ガラス化した受精卵を加温後にエレクトロポレーション法でゲノム編集を実施した場合、コントロールと同様に90%以上の胚盤胞で変異導入が確認される(表1)。
成果の活用面・留意点
- ガラス化保存されたブタ受精卵はバイオリソースとして利用できる。
- ガラス化によるDNA損傷を予防・回避できれば、ガラス化保存されたブタ未成熟卵がバイオリソースとして利用できる可能性がある。
- エレクトロポレーション法によるブタ受精卵のゲノム編集は、特別な技術や経験を必要とせず簡便であるが、ゲノム編集効率は標的部位により異なるため、予め切断性と特異性の高い配列の選定が重要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2021~2023年度
- 研究担当者 : Somfai Tamas、原口清輝、TQ. ダン グェン、菊地和弘、金子浩之
- 発表論文等 :