要約
自然免疫担当細胞であるマクロファージは、宿主-病原体相互作用を解析するためのin vitroモデルとして活用される。牛病原体の解析に向けて、牛肝類洞内皮細胞株B46細胞と牛血液の混合培養を用いた牛マクロファージの新しい回収法を提示する。
- キーワード : 牛血液、マクロファージ、B46細胞、混合培養、in vitroモデル
- 担当 : 生物機能利用研究部門・生物素材開発研究領域・動物モデル開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
マクロファージは動物の生体防御において重要な役割を担う免疫細胞である。牛の病原体であるヨーネ菌や結核菌等の抗酸菌は、宿主のマクロファージ内で長期間生存するという特性を持っており、これら細菌の細胞内での動態を解析する研究が、牛の末梢血単核球に由来する初代培養マクロファージを用いて実施されている。単離したマクロファージは増殖能が低いため、解析に必要な細胞数を調製するためには大量の血液が必要であり、また、牛の個体差によって結果の再現性に影響がでるなどの問題があることが知られている。
最近、適切なフィーダー細胞と動物の血液を混合培養することで、血液中の単球/マクロファージ系細胞の増殖を促進し、培養上清中からマクロファージを効率よく回収する手法が報告されている。そこで、本研究では、牛病原体解析への活用を目指して、牛血液マクロファージの培養に適したフィーダー細胞を明らかにし、効率の良い回収法を確立する。
成果の内容・特徴
- 75cm2フラスコに培養した牛肝類洞内皮細胞株B46細胞をフィーダー細胞として、牛血液と混合培養することで、単球/マクロファージ系細胞の増殖を促進する(図1、図2A)。
- 培養上清中に増えてきた細胞を回収し、フィーダー細胞などの混入細胞が接着しにくいシャーレへの強い付着性を利用することで、マクロファージを単離し回収する(図1、図2B)。
- 1~2カ月の培養期間に、同じフラスコから繰り返し細胞を回収することができ、血液1mlから合計で約4.4×106個のマクロファージが得られる(図2C)。
- 単離された細胞は、積極的な大腸菌死菌の貪食能を持ち、リポ多糖刺激によって各種サイトカイン遺伝子(IL-1α、IL-1β、IL-10、TNFαなど)の発現増加、炎症性サイトカインIL-1βの成熟型タンパク質の産生および一酸化窒素の産生といったマクロファージに特徴的な細胞応答を示す。
- 本研究から、牛血液マクロファージ回収のためのフィーダー細胞として、牛B46細胞が適していることが示唆される。
成果の活用面・留意点
- 本手法で回収された牛マクロファージは、抗酸菌などの牛病原体と宿主免疫細胞との相互作用を解析するためのin vitroモデル系への活用が期待される。
- B46細胞は農研機構で樹立した細胞株であり(動物衛生研究部門2019年研究成果情報「牛由来肝実質細胞株と肝類洞壁細胞株との共培養は薬物代謝酵素を相乗的に誘導する」)、依頼に応じて分与可能である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2023~2024年度
- 研究担当者 : 平松香菜恵(動衛研)、池田里奈(動衛研)、川治聡子(動衛研)、上野勇一(動衛研)、永田礼子(動衛研)、林憲悟(畜産研)、伊賀浩輔(畜産研)、吉岡都(動衛研)、竹之内敬人
- 発表論文等 :