乾燥保存可能な培養細胞Pv11の器材への固着技術

要約

ネムリユスリカ由来の培養細胞であるPv11細胞は、常温で1年間以上乾燥保存可能な唯一の動物培養細胞である。浮遊性が強いPv11細胞を、バイオデバイスに用いられているガラスやプラスチック器材に固着させることを可能とする技術である。

  • キーワード : 培養細胞、固着化、乾燥保存、バイオデバイス開発、ネムリユスリカ
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・生物素材開発研究領域・機能利用開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ネムリユスリカ由来の培養細胞であるPv11細胞は、常温で1年間以上乾燥保存可能な唯一の動物培養細胞である。Pv11細胞は、ゲノム編集技術を用いた細胞機能の改変が可能になっており、乾燥保存可能なバイオデバイス開発の基盤として用いることが期待されている。しかし、Pv11細胞は浮遊性が強い特徴を持つため、デバイスの器材に止めおくことが困難である。そこで、本研究ではPv11細胞の乾燥耐性能力を保持させたまま器材に固着する技術の開発を行う。

成果の内容・特徴

  • 市販のカバーグラスに、培養細胞を固着させることが知られている物質を塗布し、PBS緩衝液で洗浄したPv11細胞を添加する。これをPBS緩衝液で洗浄すると、BAMとCell-Takと呼ばれる細胞固着剤を塗布したカバーグラスに、Pv11細胞が顕著に固着することが確認できる(図1)。固着物質を塗布していない無処理のカバーグラスにもPv11細胞は強く固着する(図1)。
  • Pv11細胞を高濃度のトレハロースに48時間浸すと乾燥耐性が誘導される。乾燥耐性誘導済のPv11細胞を上記の方法でカバーグラスに固着させ、10日間5%湿度以下の状態で乾燥保存し、乾燥細胞を固着させたカバーグラスをPv11細胞用の培養液に浸すと、固着化させた細胞であっても器材に固着させていないものと同程度の生存率を示す(図2)。これを7日間培養し続けると細胞増殖が確認できる(図2)。
  • 培養液中の血清成分(アルブミンなどのタンパク質)が存在すると、Pv11細胞は無処理のカバーガラスに固着できない。固着処理する前にPv11細胞を緩衝液で洗浄することが必要である。
  • BAMとCell-Takという細胞固着化試薬を用いる手法はPv11細胞にも適用可能である。さらに、無処理の器材でもPv11細胞の固着は可能であり、安価で効果的な手法と認められる。

成果の活用面・留意点

  • BAMとCell-Takおよび無処理という複数のPv11細胞の固着化法を得たことで、様々な器材に対して適合する手法を選択する事が可能である。
  • 本手法を用いることで、ゲノム編集技術を用いて様々な機能性タンパク質を発現させたPv11細胞をデバイス上に固着させることが可能になる。
  • 乾燥保存可能なバイオデバイスの開発促進が期待される。

具体的データ

図1 Pv11細胞の固着手法の比較,図2 乾燥保存機能を保持させたままPv11細胞を固着させる方法

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(研究成果展開事業)
  • 研究期間 : 2021~2023年度
  • 研究担当者 : 黄川田隆洋、Cornette Richard、布施寛人(東大院)
  • 発表論文等 : Fuse H.et al. (2023) Cytotechnology 75:491-503
    doi:10.1007/s10616-023-00592-0