要約
草食昆虫幼虫の成長速度を正確に測定する新規の方法を用い、大きな成長速度を持つ昆虫・条件を検出することで、モンシロチョウや他の草食昆虫が大発生し植物・作物に大きな被害をもたらす害虫化・大発生の危険性を評価する方法であり、害虫被害軽減技術の開発に役立つ。
- キーワード : モンシロチョウ、害虫化、大発生、成長速度、比成長率
- 担当 : 生物機能利用研究部門・昆虫利用技術研究領域・昆虫制御技術グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
モンシロチョウ(図1)などの一部の草食昆虫はしばしば大発生し、害虫として植物・作物に大きな被害をもたらすが、その大発生の原因は未解明である。また、草食昆虫の害虫化や大発生の危険性を予測する方法はなく、害虫化・大発生の危険性を評価する技術の開発が求められている。そこで、本研究では草食昆虫の幼虫の成長速度を正確に測定する方法を新たに開発し、世界的に大発生する重要害虫であるモンシロチョウ、ハスモンヨトウ、ウラナミシジミ等の害虫の幼虫の成長速度を他の害虫でない草食昆虫幼虫の成長速度と比較し、幼虫の成長速度の比較で害虫化・大発生リスクの評価方法の開発と比成長速度が草食昆虫の害虫化・大発生につながるメカニズムの解明を試みる。
成果の内容・特徴
- 草食昆虫幼虫の「幼虫期間の1日あたりの成長速度」(比成長率ともいい、(当日の体重-前日の体重)/(前日の体重)で定義される量)の正確な測定法を開発した。以下の式で算出する。
幼虫期間の1日当たりの成長速度=exp10[log10{蛹重/卵重}/{幼虫期間(日)}]-1(/日)
- 世界的にキャベツに壊滅的被害をあたえる重要害虫として悪名が高いモンシロチョウの幼虫(図1)の1日当たりの成長速度は、測定した26種の草食昆虫中で群を抜いて高く1.161(次の日には体重が前日の2.161倍になる成長速度)に達する(図2)。重要豆類害虫であるウラナミシジミや種々の作物で多発する重要害虫ハスモンヨトウの成長速度もそれぞれ0.983、0.773と調べた昆虫で最も高い部類に属する。一方、発生量が少なく、たとえ作物を食べても害虫とは認識されないヒカゲチョウ(ササ類)、ヒメジャノメ(ススキ・イネなどのイネ科植物)、クワコ(クワ)などでは1日当たりの成長速度がそれぞれ0.102、0.250、0.360と低い。成長速度が大きい草食昆虫が大発生する害虫であることが多く、成長速度の測定で害虫化・大発生の危険性評価が可能である。
- 植食昆虫の害虫化と大発生に重要な性質である、「草食昆虫の発生量」や「移動性(成虫が移動して遠くの新しい圃場に侵入する性質)」と「成長速度」の関係を統計的に分析した結果、大きな発生量や大きな移動性をもつ草食昆虫ほど大きな成長速度を持つことが判る(図3)。草食昆虫の成長速度測定による大発生や害虫化危性の評価可能性には統計的正当性がある。
- 「大きな成長速度を持つ草食昆虫」は「大きな成長速度」の結果起こる「大きな移動性」で新しい圃場に侵入し、「大きな成長速度」の結果もたらされる「大きな競争力」で圃場を独占し「大きな成長速度」と天敵との釣り合いの結果起こる「大きな発生量」で大発生して作物に大きな被害を及ぼす害虫になる。このようなメカニズムで「大きな成長速度をもつ草食昆虫」は「大発生・害虫化」する。(図4)。
成果の活用面・留意点
- 昆虫の成長速度測定から、昆虫が害虫化する危険度や被害量がある程度予測可能になる。
- 外来の草食昆虫の侵入が疑われる状況となった場合に、野外・ほ場での大規模な試験を行わなくても、実験室で植物を食べさせて成長速度を調べれば、昆虫がその植物で害虫化する危険度や被害量をある程度の予測が可能になる。
- IPM(総合的病害虫管理)において「害虫の成長速度を遅くする措置」を防除手法に組み込むことでも、天敵捕食の機会が増えて被害軽減できる。
- 今後、種々の害虫と作物の組合せについて、様々な圃場環境条件下(温度・施肥・日照・潅水)で害虫の成長速度を測定することにより害虫の発生が少なくする手法を開発予定である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2018~2023年度
- 研究担当者 : 今野浩太郎
- 発表論文等 : Konno K. (2023) Sci. Rep. 13:9697