大気圧プラズマを用いたゲノム編集酵素の直接導入による遺伝子組換え不要の植物ゲノム編集

要約

一般的なゲノム編集技術では遺伝子組換えによりゲノム編集酵素遺伝子を核ゲノムに挿入しており、後代の遺伝分離でそれを除去する手順が必要である。本技術では、大気圧プラズマ照射によりゲノム編集酵素を一過的に直接導入することで上記の手順を省略し、簡便にゲノム編集ができる。

  • キーワード : ゲノム編集、大気圧プラズマ、品種改良
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・作物ゲノム編集研究領域・ゲノム編集作物開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ゲノム編集植物を作出する際には、ゲノム編集酵素遺伝子のDNAを核ゲノムに挿入するという遺伝子組換え植物を経由する方法が一般的である。その場合、ゲノム編集を行った後に、遺伝的分離によって導入遺伝子を持たない植物を取得する必要があり、時間と手間を要する。
すでに農研機構と東京工大との共同研究で、植物細胞をイオン化した気体である常温大気圧プラズマで処理することで、細胞内にタンパク質などの生体高分子を取り込ませることに成功している(2016年成果情報)。そこで、遺伝子組換え技術を用いない方法として、大気圧プラズマ照射によりゲノム編集酵素を一過的に直接導入し、植物をゲノム編集する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本技術では、ゲノム編集酵素をタンパク質やRNAの形で一過的に直接導入するため、これまでの遺伝子組換え植物を経由するゲノム編集法で必要だった後代での外来遺伝子の除去が不要となる。
  • 設計通りにゲノム編集が行われた場合にだけ機能回復する発光酵素遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)を持つイネカルス(細胞の塊)を用いて、技術の成否を評価することができる(図1)。本技術により、想定通り発光するカルスが検出され、ゲノム編集によってルシフェラーゼ遺伝子が機能回復したことが示唆される(図2)。
  • 同様に、設計通りにゲノム編集が行われた場合にだけ機能回復する抗生物質耐性遺伝子を持つタバコ葉で技術の成否を評価することができる。想定通り抗生物質耐性カルスが出現し(図3)、さらに遺伝子の塩基配列レベルでもゲノム編集が起きていることから、イネ以外の植物でも本技術によるゲノム編集が可能であることが示される。

成果の活用面・留意点

  • 遺伝子組換え植物を経由しないため、より簡便で社会受容性に配慮した方法であると考えられる。
  • ライフサイクルの長い樹木や栄養繁殖性の作物など、これまでゲノム編集が困難だった植物における品種開発の新しいツールとして活用できる可能性がある。
  • モデル実験に成功した段階であり、実用化に向けて植物内在性遺伝子での実証と効率の向上が必要となる。

具体的データ

図1 イネカルスへのプラズマ照射によるゲノム編集酵素導入及びゲノム編集検出法,図2 ゲノム編集によって導入した変異ルシフェラーゼ遺伝子が修復されたイネカルス,図3 ゲノム編集によって導入した抗生物質耐性遺伝子が機能回復したタバコカルス

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)、SIP
  • 研究期間 : 2017~2023年度
  • 研究担当者 : 光原一朗、遠藤真咲、柳川由紀、土岐精一、加藤悦子、沖野晃俊(東京工大)
  • 発表論文等 : Yanagawa Y. et al. (2023) PLoS ONE 18:e0281767