根の張り方の制御に関わるイネ転写因子群の同定

要約

熱ストレスに応答して遺伝子発現を制御するイネHSF転写因子は、重力方向への根の伸長に必要な植物ホルモンであるオーキシンの輸送制御に関連する遺伝子群の発現を誘導する。根を深く張ることで、植物は土中深くにある水分を獲得できるため、干ばつに強くなる。HSF転写因子の機能を利用することで、干ばつ被害を受ける耕作地でも生育できる作物の開発が期待される。

  • キーワード : 根系、干ばつ耐性、重力屈性、遺伝子発現、転写因子
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・作物生長機構研究領域・作物環境適応機構グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

地球規模の気候変動の影響によって干ばつ被害を受ける地域や被害の大きさが増加することが予測されており、干ばつに強い作物の開発が必要である。根の張り方を改良することで、根を深く張り、土中深くの水分を獲得できる作物の開発が有効である。作物の根の深さは、根が重力方向を感知して伸長する性質(重力屈性)に依存するが、イネにおいて根の重力屈性制御メカニズムの多くは未解明である。
そこで、本研究では根において重力を感知して発現が変化する遺伝子を網羅的に同定することで、重力屈性を制御する鍵因子を同定する。

成果の内容・特徴

  • イネの芽生えをランダム方向に回転させることにより重力の影響がほとんどない状態(微小重力)においた後に、静置することで重力を感知させた(図1)。この重力環境の変化前後の芽生えサンプルからRNAを抽出し、RNA-seqによる経時的な遺伝子の発現変動解析を行った。
  • 重力変化に応答して発現変動する遺伝子には、植物ホルモンであるオーキシンの輸送に関連する遺伝子群や、HSF転写因子などの熱ストレスに応答して発現誘導される遺伝子群が多く含まれていた(図2)。
  • オーキシン輸送関連遺伝子群や熱ストレス応答遺伝子群の発現は重力変化によって同じように変化し、共発現していた(図3)。
  • これらの共発現遺伝子の近傍にはHSF転写因子が結合する配列が共通して存在することから、HSF転写因子はこれらの共発現遺伝子群の発現を統治する鍵因子であると考えられる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果で同定したHSF転写因子群の機能を利用して、根を深く張ることで土中の水分を獲得できる干ばつに強いイネ品種を開発することが期待される。
  • 本成果で同定したHSF転写因子と類似した相同遺伝子を持つトウモロコシやコムギなど、他のイネ科作物においても根を深く張る品種の育種に役立つことが期待できる。

具体的データ

図1 クリノスタットを用いた微小重力処理と静置による重力負荷処理,図2 重力変化に応答する発現変動遺伝子の発現パターン,図3 重力応答遺伝子の共発現ネットワーク

その他

  • 予算区分 : 文部科学省(戦略的創造研究推進事業)
  • 研究期間 : 2020~2023年度
  • 研究担当者 : 久家徳之、西嶋遼、川勝泰二、宇賀優作
  • 発表論文等 : Kuya N. et al. (2023) Front. Plant Sci. 14:1193042