要約
育成した繭糸強度の高い蚕品種「響明」の生糸強度は従来品種の生糸より20%程度高い。「響明」の繭から繰糸した生糸で作製した三味線用絹絃は耐久性が向上しており、使用感や音色等も優れている。「響明」の生糸を使用することで耐久性と音色に優れた三味線用絹絃の開発が可能となる。
- キーワード : 高機能シルク、品種育成、高強度繭糸、三味線絃、絹絃
- 担当 : 生物機能利用研究部門・絹糸昆虫高度利用研究領域・カイコ基盤技術開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
シルクは織物だけでなく、脱石油を目指した持続可能な工業用素材としても注目されており、いずれの分野においても強度に優れたシルクの開発が求められている。その一例として、和楽器の絃においては耐久性の問題から伝統的な絹絃の代替品として化学繊維の利用が増えているが、音色等に課題があり、強度の向上した絹絃の開発が求められている。そこで本研究では繭糸強度の高い蚕品種を新たに育成し、そのシルクを絹絃の素材として活用することにより、高い耐久性と美しい音色を兼ね備えた三味線用絹絃を開発する。
成果の内容・特徴
- 新品種「響明」は繭糸強度の高い高強度系統として選抜育種したMC502系統を日137号と掛け合わせ、繭の生産性を向上させた雑種第一代である。「響明」の繭から繰糸した生糸は、実用品種の生糸と比べて強度が20%程度高い(図1)。
- 「響明」の生糸を使用した三味線用絹絃は、絃が切れるまでの撥(ばち)ではじく回数が30%以上増加し、耐久性が向上する(図2)。
- 「響明」の生糸を使用した三味線用絹絃のプロの和楽器演奏家による官能試験の評価結果は、全ての項目において既製品の最上級品(寿糸極上)と同等、又はそれ以上である(図3)。
- 演奏音は硬質で澄んでおり、良く鳴り響く印象である。
- 2024年度より養蚕農家での「響明」の商用生産を開始している。また、当該絹絃の開発元である丸三ハシモト(株)より2024年度中に「響明」の生糸を使用した三味線用絹絃(寿糸極上響明)が上市される(図4)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 養蚕農家、絹絃生産事業者、普及指導機関(JA)。
- 普及予定地域 : 全国の養蚕実施地域。
- その他 :
- 「響明」は、やや虫体が小さいため単位面積あたりの飼育頭数を増やすことが望ましい。
- 「響明」は、成育期間が一般的な実用品種と比較して1-2日短いことに留意すること。
- 「響明」の生糸を使用した三味線用絹絃は、耐久性が高く、毛羽立ちにくく、余韻と音量に優れるため、演奏会など大きなホールで弾く本番用としての活用が期待される。
- 「響明」の生糸を用いた楽器用絹絃による伝統音楽の保存と継承に加え、「響明」の持つ繭糸強度と耐久性の高さを生かし、他のシルク製品やこれまでシルクが使用されていない分野における活用が期待される。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、民間資金等(貞明皇后研究助成)
- 研究期間 : 2018~2024年度
- 研究担当者 : 伊賀正年、飯塚哲也、中島健一、岡田英二
- 発表論文等 :
- 伊賀ら(2023)日本シルク学会誌、31:35-40
- 伊賀ら(2021)日本シルク学会誌、29:51-57
- 岡田ら(2021)日本シルク学会誌、29:39-49
- 岡田ら(2019)日本シルク学会誌、27:115-131