カイコ繭からの高分子量セリシンの抽出・安定化技術

要約

カイコが作る繭から高分子量セリシンを水溶液として効率的に抽出し、さらに長期にわたって液体状態のまま安定化させる技術の開発により、化粧品への配合時にヒト皮膚での経表皮水分蒸散量を抑制する機能を発揮する新規な化粧品素材の生産を可能にする。

  • キーワード : カイコ、高分子量セリシン、皮膜形成能、グリセリン、経表皮水分蒸散量
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・絹糸昆虫高度利用研究領域・新素材開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

スキンケア分野では消費者の肌悩みが多様化し、高い安全性と機能性を有した製品が望まれている。同時に、海洋・土壌汚染などの環境課題を背景に、よりサステナブルな天然素材の利用も注目されている。本研究では、カイコの繭を構成するタンパク質「セリシン」に着目し、ユースキン製薬株式会社との共同研究により新規な化粧品素材を開発する。セリシンはフィブロイン繊維を取り囲んで相互に固着させているタンパク質で、親水性に優れ、かつ、その水溶液は高い皮膜形成能を有する特徴がある。そのため、セリシンを含む化粧品を皮膚に塗布した際に被膜を形成し、皮膚からの水分蒸散を抑制する機能が期待される。しかし、セリシンは抽出の過程で容易に分解して分子量が低下し、被膜形成能が損なわれてしまうという課題がある。そこで本研究では、高分子量のセリシンをカイコ繭から効率的かつ安全な方法で水溶液として抽出する技術、および、抽出した高分子量セリシンを液体状態のまま安定化する技術を開発し、化粧品素材としての利用を可能にする。

成果の内容・特徴

  • 高分子量セリシンの抽出には、セリシンのみからなる繭を作るカイコ品種「セリシンホープ」(図1)およびその派生品種の利用が有効である。
  • 人体への安全性の観点から、高分子量セリシンの抽出には塩化カルシウム水溶液を用いる。
  • 上記抽出液にグリセリンを添加することにより、高分子量セリシンをゲル状の懸濁液として安定化させる。その後、遠心分離による簡便かつ迅速な脱塩(過剰な塩化カルシウムの除去)を行い、高分子量セリシン-グリセリン組成物(HSG)が調製される(図2)。
  • HSGに含まれている高分子量セリシンは被膜形成能を維持している(図3)。
  • HSGを配合したクリームをヒトの皮膚に塗布すると、経表皮水分蒸散量(TEWL)が有意に抑制される(図4)。

成果の活用面・留意点

  • HSGの配合によりTEWLの抑制効果が現れることから、化粧品素材としてスキンケア製品等への活用が期待される。
  • セリシンホープおよびその派生品種は遺伝子組換え生物ではないため、適切な配布手続きを経て一般の養蚕農家や企業施設等で飼育が可能である。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間 : 2017~2021年度
  • 研究担当者 : 寺本英敏、小島桂、亀田恒徳、今江龍太(ユースキン製薬)、松見あずさ(ユースキン製薬)、湊志帆(ユースキン製薬)、飯野隼人(ユースキン製薬)
  • 発表論文等 :
    • Imae R. et al. (2024) J. Silk Sci. Tech. Jpn. 32:29-42
    • 寺本ら「被膜形成能を有する高分子量セリシン組成物およびその製造方法」特開2020-193196(2023年12月3日)