アカカワイノシシ由来の新しいマクロファージ細胞株

要約

アカカワイノシシはアフリカ豚熱ウイルスに感染しても発症しないという特徴がある。アカカワイノシシの血液から作製したマクロファージ細胞株は、アフリカ豚熱ウイルスの病原性の解明や、アフリカ豚熱に対するワクチンの開発に活用できる。

  • キーワード : アカカワイノシシ、マクロファージ、不死化細胞株、アフリカ豚熱ウイルス
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・生物素材開発研究領域・動物モデル開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

アフリカに生息するアカカワイノシシは、自然界においてアフリカ豚熱(ASF)ウイルスと共生している野生動物(自然宿主)として注目される。ASFウイルスは、豚やイノシシに感染すると、免疫細胞の一種であるマクロファージの中で増殖し、感染した豚は発熱や出血といった病状を示して極めて高い確率で死に至る。一方、アカカワイノシシは、豚と同じイノシシ科の動物種であるにもかかわらずASFウイルスに感染しても症状や病変を示すことがなく、死に至ることもない。そのため、アカカワイノシシのマクロファージにはASFウイルスに対する防御機構が備わっていると考えられる。
ASFウイルスの研究には、生体外に取り出して培養した豚のマクロファージが利用されているが、豚マクロファージを生体外で増やすことは一般的に難しい。そこで我々は、世界に先駆けて生体外で安定的に増え続ける豚マクロファージ由来のIPKM細胞株を樹立し、細胞入手の効率化を図ったことで、ASFウイルスの研究が大きく進展している。
ASFウイルス研究をさらに加速するために、横浜市立よこはま動物園の協力により、アカカワイノシシの健康診断時の余剰血液の提供を受け、その血液からマクロファージを分離し、生体外で増え続ける能力を付与(不死化)した新しい細胞株を作製する。

成果の内容・特徴

  • アカカワイノシシの血液からマクロファージを増やし、次いで培養皿への接着特性を利用してマクロファージを選択的に回収する。
  • 回収したアカカワイノシシの血液マクロファージに2種類の遺伝子を導入して不死化を誘導する。増殖能が付与されたマクロファージ細胞株(RZJ/IBM)は、少なくとも50回以上の分裂が可能である。
  • RZJ/IBM細胞株はマクロファージに特徴的なアメーバ様の形態を示し、炎症反応や死菌に対する食作用など、マクロファージとしての機能を有する。また遺伝子解析の結果から、アカカワイノシシ由来の細胞であることも確かめられる。
  • 2種類のASFウイルスについて、RZJ/IBM細胞株にも感染するが、豚のIPKM細胞と比較してRZJ/IBM細胞株ではウイルス増殖が抑えられている(図1)。

成果の活用面・留意点

  • RZJ/IBM細胞株とIPKM細胞株とのASFウイルス感染に対する応答性の違いを詳細に比較解析することで、「ASFウイルスに感染した豚は発症するのに、なぜアカカワイノシシは発症しないのか」について、細胞・分子レベルでの解明が進む(図2)。
  • 本研究で得られる知見は、ASFに対するワクチン開発や感染対策技術の確立に役立つことが期待される。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:官民・国際連携によるASFワクチン開発の加速化)
  • 研究期間 : 2020~2024年度
  • 研究担当者 : 竹之内敬人、舛甚賢太郎、池田里奈、原口清輝、鈴木俊一、恩田英治(よこはま動物園)、上西博英、國保健浩
  • 発表論文等 :
    • Takenouchi T. et al. (2024) Front. Immunol. 9:919077
    • 竹之内ら「不死化カワイノシシマクロファージ」国際特許PCT/JP2025/006269(2024年2月26日)