昆虫培養細胞を利用した細胞内共生細菌ボルバキアのメス化機能評価系

要約

昆虫には様々な系統の細菌ボルバキア(Wolbachia pipientis)が共生し、いくつかの異なる方法で生殖システムが操られている。ボルバキアを感染させた培養細胞が持つ性決定遺伝子の発現パターンを解析することにより、メス化能力を持つボルバキアを判別できる。

  • キーワード : ボルバキア、培養細胞、遺伝子発現、性決定、昆虫
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・昆虫利用技術研究領域・昆虫制御技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

細胞内共生細菌ボルバキアでは、宿主昆虫の生殖を操る系統が知られている。一部のボルバキア系統は、宿主の性決定に関わる遺伝的シグナルを変化させることによって、オスを殺したり、メスに変えたりする。ボルバキアは人工培養が困難であるため、生殖を操る機能の特定には、ボルバキアに感染した昆虫を作成して調べる必要があり、時間と労力を要することが研究開発におけるボトルネックとなっている。本研究では、ボルバキアが昆虫培養細胞に感染し、培養・増殖することに着目し、性決定遺伝子の発現がオス型に維持されているオス由来の細胞株に感染させることにより、ボルバキアがオスを殺したり、メスに変えたりする機能を解析し、本来の宿主昆虫での働きを再現できるかどうかを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 様々な昆虫種から単離したボルバキア系統は昆虫培養細胞に感染させて、増殖・保存ができるだけでなく、性決定に与える影響を解析することができる(図1)。
  • アズキノメイガのオスから樹立した培養細胞4株(NARO-Ossc-M1、NARO-Ossc-M4、NARO-Ossc-M7及びNARO-Ossc-M8)の性決定遺伝子の発現はオス型を示し、アズキノメイガのメスから樹立した培養細胞2株(NARO-Ossc-F5、NARO-Ossc-F6)の性決定遺伝子の発現はメス型を示すことから、これらの細胞では、性決定機構が元々の宿主の性と一致することが確認できる。
  • アズキノメイガのオスから樹立した培養細胞2株(NARO-Ossc-M1及びNARO-Ossc-M4)にアズキノメイガの共生ボルバキアであるwScaを感染させると、10週間かかって性決定遺伝子の発現がオス型から完全にメス型に切り替わる。また、ボルバキア感染によりメス型に切り替わった発現パターンは、抗生物質を投与することにより、オス型に戻る(図2)。
  • アズキノメイガやそれ以外の昆虫(スジコナマダラメイガ、スジマダラメイガ、キタキチョウ、イラクサギンウワバ及びチャハマキ)に由来するボルバキア合計9系統をNARO-Ossc-M1細胞に感染させると、昆虫宿主をメスのみにするボルバキア系統4系統のみで性決定遺伝子の発現がオス型からメス型に変化する。つまり、NARO-Ossc-M1細胞株を用いることにより、様々なボルバキア系統が持つ性決定遺伝子の発現をメス型に変化させる能力を検出できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • ボルバキアを害虫防除などに応用使用する際に、ボルバキアが持つ機能を簡便に調査することができる。
  • 今回開発した培養細胞システムにより、ボルバキアが持つ宿主操作の機能を直接比較解析できる。
  • ただし、培養細胞は昆虫が持つ様々な機能を失っていることから、どのような機能も再現できるわけではないことに留意する必要がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2021~2024年度
  • 研究担当者 : 陰山大輔、新井大、エラン・ベンジャミン・フレデリック、杉本貴史、渡邊和代、今西重雄、宮田真衣(福井大)、土田努(富山大)、松尾隆嗣(東大)、石川幸男(摂南大)、佐々木哲彦(玉川大)
  • 発表論文等 :
    • Herran et al. (2023) PNAS Nexus 2:pgac293 doi:10.1093/pnasnexus/pgac293
    • Arai H et al. (2024) PNAS Nexus 3:pgae348 doi:10.1093/pnasnexus/pgae348