要約
ゲノム編集を起こす活性が高い小型のゲノム編集酵素改変型AsCas12fを植物ウイルス由来のベクターに搭載したゲノム編集技術である。この方法により、ウイルスベクターを直接導入していない葉でもゲノム編集が可能となり、外来核酸を含まないゲノム編集個体を得ることができる。
- キーワード : ウイルスベクター、ジャガイモXウイルス、ベンサミアナタバコ、改変型AsCas12f
- 担当 : 生物機能利用研究部門・作物ゲノム編集研究領域・ゲノム編集技術グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ウイルスベクター法は、ウイルスが植物に感染、増殖、体内を移行する性質を利用してウイルスに遺伝子を運ばせる方法である。ゲノム編集酵素遺伝子をウイルスベクターに搭載すれば、ウイルスが運ばれた細胞でゲノム編集を誘導することが可能である。これまでに、農研機構では、ナス科植物に感染するジャガイモXウイルス(PVX)を元にしたウイルスベクター(PVXベクター)を利用したゲノム編集技術を開発しており、PVXベクターが感染したモデル植物であるベンサミアナタバコの葉から植物体を再生させ、ゲノム編集個体を獲得することに成功している。
一般的に、ウイルスベクターは搭載できる遺伝子のサイズに上限があり、サイズが大きい遺伝子を搭載した場合は、ウイルスベクターの増殖過程でその遺伝子が抜け落ちてしまうことが知られている。上記のPVXベクターでは、広く使用されているゲノム編集酵素SpCas9(1,386アミノ酸残基)の遺伝子を搭載した場合、植物のごく一部の細胞でしかゲノム編集が起こらないことが課題である。よって、様々な植物種への適用拡大などウイルスベクターによるゲノム編集法の改良を図るには、ウイルスベクターに搭載するゲノム編集酵素遺伝子はできるだけ小型のものが望ましい。
本研究では、東京大学等が開発した、ゲノム編集を起こす活性が高く、SpCas9の1/3以下のサイズである小型のゲノム編集酵素(改変型AsCas12f、422アミノ酸残基)に着目し、ゲノム編集酵素の小型化が植物ゲノム編集効率に及ぼす影響を明らかにすることにより、ウイルスベクターを利用したゲノム編集技術の改良に必要な知見を得る。
成果の内容・特徴
- 本ベクターは、I123Y/D195K/D208R/V232Aの4つのアミノ酸置換を有する改変型AsCas12fとそのガイドRNA、PXV由来の遺伝子で構成される。
- DNAを植物細胞内に送り込む働きを持つ細菌(アグロバクテリウム)を介して、本ベクターをベンサミアナタバコの葉に導入する。SpCas9を搭載したベクターを導入したベンサミアナタバコでは、ベクターを直接入れていない葉ではほぼゲノム編集を確認できない(図1)。一方、本ベクターの場合、ベクターを直接入れていない葉でもゲノム編集を起こすことができる(図1)。例えば、ベクターを導入した葉の2枚上の葉では、SpCas9と比較して改変型AsCas12fによるゲノム編集効率は10倍以上高い(図2)。
- PVXベクターを導入した葉の2枚上の葉から植物体を再生させたところ、再生個体の約60%でゲノム編集が起きる。また、ゲノム編集によって改変された遺伝子は次世代植物に遺伝する(図3)。
成果の活用面・留意点
- アグロバクテリウムによりPVXベクターを導入した葉にはPVXベクターのDNAが含まれるが、ベクターを導入した葉の上の葉にはPVXベクターのDNAは含まれない。また、PVXベクターは世代を超えて伝わらないため、本ベクターを導入した植物の子孫はPVXベクターに由来する外来核酸(DNA、RNA)が含まれていないゲノム編集個体である。
- 図2では、ベクターを導入した葉より2枚上の葉のゲノム編集効率を例示したが、実際のゲノム編集実験では、標的とする遺伝子配列や、植物体の生育条件や生育期間、どの位置の葉を調べるかによってゲノム編集効率は大きく変わることに注意が必要である。
- PVXはナス科植物に感染するウイルスであり、本ベクターはタバコのみならず、トマトやナス、ジャガイモ等のナス科植物にも利用可能であると期待される。
- ナス科以外の作物に感染するウイルスを元に構築したウイルスベクターに改変型AsCas12fを搭載することにより、多様な作物種でのゲノム編集に利用できることが期待される。
- 改変型AsCas12fは小型であるため、PVXベクターにはゲノム編集の標的遺伝子を決めるガイドRNAを複数搭載でき、それにより複数の遺伝子のゲノム編集を同時に起こすことが期待される。
- 別途開発した生長点移行型のウイルスベクターと改変型AsCas12fを組み合わせることにより、植物の組織培養を行うことなく、簡便に効率よくゲノム編集個体を獲得できると期待される。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:ゲノム編集技術を活用した農作物品種・育種素材の開発(包括))、SIP、PRISM
- 研究期間 : 2021~2024年度
- 研究担当者 : 石橋和大、助川聖、遠藤真咲、原奈穂、濡木理(東京大)、雑賀啓明、土岐精一
- 発表論文等 :
- Ishibashi K. et al. (2024) Front. Plant Sci. 15:1454554 doi:10.3389/fpls.2024.1454554
- 濡木ら、特願(2024年4月15日)