要約
種子貯蔵タンパク質グルテリン(GluA、GluB、GluC)を欠失した「コシヒカリ」系統である。このイネ種子では、種子貯蔵タンパク質のうちグルテリンが大幅に低減している。さらに、半矮性遺伝子(sd-1)を保有し「コシヒカリ」より倒伏耐性が高く、植物工場等での栽培にも適している。
- キーワード : イネ、貯蔵タンパク質、グルテリン、ゲノム編集、有用物質生産
- 担当 : 生物機能利用研究部門・作物ゲノム編集研究領域・ゲノム編集技術グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
イネ種子には7%前後のタンパク質が含まれており、そのほとんどを発芽の際に栄養源となる種子貯蔵タンパク質が占めている。種子貯蔵タンパク質のおよそ70%がグルテリン、20%がプロラミン、10%がグロブリンである。グルテリンやグロブリンは消化されやすく(易消化性)、我々の食生活で重要なタンパク質源となるが、プロラミンは消化されにくく(難消化性)、タンパク質源として利用されにくい。
イネにおける低グルテリン変異体は、グルテリン生産のエネルギーやソースを他のタンパク質生産に回せるため、有用組換えタンパク質蓄積イネの宿主として適している。しかし、これまで知られている低グルテリン変異体「a123」や「LGC-1」の種子ではまだ複数のグルテリン遺伝子が機能しており、一定量のグルテリンが含まれている。グルテリン含有量をさらに低減させれば上記の用途適性が高まると考えられるが、従来の変異原を用いた方法では多大な時間と労力を要するため極めて困難である。そこで、ゲノム編集技術を活用することで、従来型低グルテリンイネ系統よりもさらにグルテリンを低減させた「超グルテリン低減イネ系統」を作出する。
成果の内容・特徴
- 予め4つのグルテリン遺伝子が欠失している「コシヒカリ」の変異系統「a123」を宿主として、ゲノム編集技術により追加で5つのグルテリン遺伝子を欠失させる。2回のゲノム編集の結果として得られた主要グルテリン欠失「コシヒカリ」イネ系統(GluABC KO)は、種子貯蔵タンパク質グルテリンの主要な3タイプ(GluA、GluB、GluC)が全て欠失し、グルテリン含有量が著しく低減する(図1)。
- 上記系統ではグルテリンが大幅に低減している一方で、プロラミンは増加する(図1)。
- 上記系統に半矮性化遺伝子のsd-1を交配で導入した改良系統(GluABC KO sd-1)では、「コシヒカリ」と比較して草丈が短くなる(図2)。稈長が有意に低下した一方、穂長や分げつ数は同等である(表1)。以上の改良により、超低グルテリン系統に半矮性による倒伏耐性が追加され、植物工場等での栽培に適している。
- 次世代シークエンス解析により、上記の半矮性・超低グルテリン「コシヒカリ」系統では、ゲノム編集に使用した外来DNAが存在しないこと(ヌルセグリガント)を確認している。
成果の活用面・留意点
- 従来型低グルテリン変異系統のa123やLGC-1よりもグルテリンが大幅低減していることから、有用タンパク質の発現母本に適している。
- 雑味の原因となる易消化性タンパク質が少ないため、日本酒原料にも適している。また、難消化性のプロラミンが増加しており、脂質・糖質の吸収をおだやかにする「高レジスタントプロテイン米」としての利用も期待できる。
- 上記系統はCRISPR/Cas9を介したゲノム編集により作出されていることから、社会実装に際しては届け出等の規制対応が必要である。またCas9に関する特許使用許諾料が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2017~2024年度
- 研究担当者 : 若佐雄也、川勝泰二、小沢憲二郎、石丸健
- 発表論文等 : Wakasa Y. et al. (2024) Plant Cell Rep. 43:51