米(イネ胚乳)の生長に関わるインプリント遺伝子発現の緻密な制御

要約

イネ胚乳の生長にはインプリント遺伝子が重要な役割を果たす。インプリント遺伝子は母親もしくは父親から受け継いだものだけが活性化する。インプリント遺伝子の制御は生長段階や細胞の種類で異なり、その制御を強化することで、イネ胚乳の生長を適切に維持する技術開発が期待される。

  • キーワード : 胚乳、インプリンティング、遺伝子発現、ヒストン修飾、DNAメチル化
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・作物生長機構研究領域・作物環境適応機構グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

野生種などの遺伝資源には高収量・耐病性・ストレス耐性など、栽培種が失った有用形質が残っており、育種素材として期待されている。しかし遺伝的に遠縁な系統同士の交配ではしばしば種子形成が阻害され、遺伝資源の利用の障壁を生じる。この原因の一つとして、イネ胚乳の生長に関与するインプリント遺伝子の発現が撹乱されることが挙げられる。インプリント遺伝子とは、両親から受け継ぐ遺伝子のうち一方のみが発現する(インプリンティング)遺伝子であるが、その詳細な制御メカニズムは不明である。
そこで、本研究ではイネ胚乳において母親由来と父親由来の遺伝子を区別してその動態を網羅的に明らかにすることで、インプリンティングの動的な変化や制御メカニズムを解明する。

成果の内容・特徴

  • 胚乳の生長を通して持続的にインプリンティングが維持される遺伝子(持続的インプリント遺伝子)と、特定の発生ステージでのみインプリンティングが観察される遺伝子(ステージ特異的インプリント遺伝子)が同定される(図1)。
  • 母親由来遺伝子のみ発現するインプリント遺伝子(母性インプリント遺伝子)の父親由来遺伝子はDNAメチル化によって発現が抑制され、父親由来遺伝子のみ発現するインプリント遺伝子(父性インプリント遺伝子)の母親由来遺伝子はヒストン修飾によって発現が抑制される(図1)。
  • 持続的インプリント遺伝子はDNAメチル化やヒストン修飾の強固なエピジェネティック修飾に、ステージ特異的インプリント遺伝子は比較的弱いエピジェネティック制御によって制御される(図1)。
  • 持続的インプリント遺伝子は多くの細胞クラスターで広範に発現しているが、ステージ特異的インプリント遺伝子は特定の細胞クラスターでのみで発現しており、細胞の種類ごとのインプリント遺伝子の発現の違いが胚乳発生制御に重要な役割を果たしている(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 人為的なDNAメチル化やヒストン修飾の改変によって、遠縁交配による種子形成阻害を回避して育種を加速することが期待できる。
  • インプリント遺伝子の細胞の種類ごとの発現制御メカニズムを全容解明するには、細胞の種類ごとにDNAメチル化やヒストン修飾のエピジェネティック修飾を解析する技術を確立する必要がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2021~2024年度
  • 研究担当者 : 川勝泰二、殿崎薫(横市大)、須崎大地(横市大)、森中初音(理研)、小野明美(横市大)、永田博基(横市大)、古海弘康(遺伝研)、野々村賢一(遺伝研)、佐藤豊(遺伝研)、杉本慶子(理研)、Luca Comai(UC Davis)、畠山勝徳(岩手大)、木下哲(横市大)
  • 発表論文等 : Tonosaki K. et al. (2024) Nature Plants 10:1231-1245