水稲の種子伝染性細菌病の発症を強力に抑制する新たな内生細菌とその作用機構の解明

要約

抵抗性イネ品種Nona Bokraから単離した非病原性の内生細菌Burkholderia gladioli NB6は水稲の種子伝染性病害を強力に抑制する。植物保護効果の因子は本菌株が分泌する抗菌性物質「テイロシンBglaTNB6」である。本成果は植物細菌病害のバイオコントロール技術開発に応用できる。

  • キーワード : イネ、種子伝染性細菌病、内生細菌、テイロシン、バイオコントロール
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・作物生長機構研究領域・作物環境適応機構グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

水稲の主要な種子伝染病であるもみ枯細菌病(原因細菌Burkholderia glumae)と苗立枯細菌病(原因細菌B.plantarii)は主食であるコメの農業生産に重大な被害を与える。本病害に対する市販の抵抗性品種は存在しないため殺菌剤を用いた防除が主流であるが、薬剤耐性菌の発生が問題となっている。本研究は、これらの病害に対して抵抗性を示すイネ品種から内生細菌を分離し、その病害抑制効果と作用機構を明らかにすることで、バイオコントロールによる病害防除技術の開発を目的とする。

成果の内容・特徴

  • Burkholderia gladioli NB6(以下NB6)株は、インディカ系の抵抗性イネ品種Nona Bokraから分離した非病原性細菌であり、生菌および培養上清はもみ枯細菌病および苗立枯細菌病を抑制する(図1)。
  • NB6株が培養上清に分泌する植物保護成分は生化学的手法と遺伝子工学的手法を組み合わせた方法で精製及び解析した結果、細菌を特異的に殺菌する「テイロシンBglaTNB6」と同定される(図2および3)。BglaTNB6はNB6ゲノムのプロファージ〔細菌の染色体に挿入されて組み込まれるバクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)のゲノム〕領域にコードされており、ファージの頭部のない尾状構造をしている(図3B)。BglaTNB6はB.glumaeB.plantariiを含む複数のBurkholderia属細菌に対する抗菌活性を示す(図3C)。
  • 培養上清が植物保護効果を示さない同属のM1064株のプロファージ領域はBglaTNB6と類似する遺伝子配列を持つが、BglaTNB6と異なりファージ頭部遺伝子が含まれている(図4)。NB6がBglaTNB6を遺伝的に獲得したことが病害抑制効果のひとつの要因と考えられる。

成果の活用面・留意点

  • NB6株及びBglaTNB6はもみ枯細菌病および苗立枯細菌病に対する微生物農薬のシーズとして期待できる。抵抗性品種を内生微生物の単離源とすることは、新たな微生物農薬のシーズ探索において有効な戦略となる。
  • 実用化に向けて、NB6株の生菌及びテイロシンの処理方法や大量生産技術等の検討が必要である。また、現地での試験や農業現場での適用時には、病原菌の地域特異性を考慮する必要がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2020~2024年度
  • 研究担当者 : 香西雄介、提箸祥幸、渡邊陸、梶原英之、鈴木喜大、小野裕嗣、内藤健、秋本千春
  • 発表論文等 :
    • 冨山(秋本)、香西「新規菌株及びそれを含む組成物並びにイネ科植物の細菌性病害を防除する方法」特許第7628710号(2025年2月12日)
    • 冨山(秋本)ら「新規テイロシン及びそれを含む組成物並びにイネ科植物の細菌性病害を防除する方法」特開025-18897(2025年2月6日)
    • Kouzai Y. et al. (2024) PLoS pathogens 20(10) e1012645