要約
ミノムシは歩行やぶら下がりのため、糸をジグザグ状に吐き折返し点を接着物質で基盤に固着してハシゴ状足場を作る。接着点の剥離強度測定法を確立し、その測定法による解析の結果、各接着点の強度はぶら下がり時の自重に耐える最小量の接着剤で制御されている。
- キーワード : ミノムシの糸、ミノムシの足場、バイオ素材、脱石油構造材料、安全設計
- 担当 : 生物機能利用研究部門・絹糸昆虫高度利用研究領域・新素材開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ミノムシは糸をジグザグ状に吐糸し、折り返し点を接着剤で固定することで「ハシゴ状足場」を作り、歩行やぶら下がりに利用する(図1)。足場は連続する一本の糸から成り、一日の移動で数百メートルに及ぶこともある。ミノムシの糸は高強度、高弾性率、高タフネス性を兼ね備えていることから、各折り返し点の接着を剥離出来れば、革新的バイオ素材として構造材料分野等での利用が期待される。
そこで本研究では、ミノムシがつくるハシゴ状足場の接着点剥離強度測定法を確立し、剥離強度の評価を通してミノムシの足場設計戦略を調べるとともに、長尺糸の効率的回収技術の開発に繋げる。
成果の内容・特徴
- 壁および天井に作られたハシゴ状足場からミノムシがぶら下がる二つの事象を想定し、足場の接着点剥離強度評価法を確立する(図2)。
- 接着点剥離強度をミノムシの自重で除した値を接着安全係数(ASF : Adhesion Safety Factor)と定義すると、ミノムシの自重が最も強く作用する天井からのぶら下がりの場合、天然木材に作られた足場でASF=1.1であった(図3a)。このことは、ミノムシは足場を作る際に各接着点に使用する接着剤の量を、ぶら下がりによる接着剥離(すなわち落下)が生じない最小量に制御していることを示している。
- 足場を作らせる基盤をプラスチック製に替えることで、接着点剥離力はミノムシの自重に耐えられないまでに低下する(ASF=0.5)(図3b)。
成果の活用面・留意点
- 本研究で確立した接着剥離強度評価法は、長尺糸の効率的な回収に適した基盤材料の選定に根拠を与え、産業利用の加速化に繋がる。
- ミノムシがシルクと接着剤を用いてつくる建築物「ハシゴ状足場」のエネルギーミニマムな安全設計は、我々人がつくる建築物のエコ設計においても参考にできるかもしれない。
- 「ハシゴ状足場」で使われる接着成分を明らかにすることで、新たな天然由来接着剤の開発に繋がる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、SATREPS
- 研究期間 : 2015~2022年度
- 研究担当者 : 吉岡太陽、亀田恒徳
- 発表論文等 : Yoshioka T. et al. (2025) Sci. Rep.15:6120