要約
豚マクロファージ細胞株は、アフリカ豚熱ワクチン生産細胞として期待されている。通常の増殖培地に用いられる牛胎子血清には未知の混入物のリスクが懸念されるが、本研究で開発された無血清培地ではそのリスクが排除されるため、より安全性の高いワクチンの開発に活用できる。
- キーワード : 無血清培地、無血清培養、浮遊培養、豚マクロファージ細胞株
- 担当 : 生物機能利用研究部門・生物素材開発研究領域・動物モデル・機能利用開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
アフリカ豚熱(ASF)は、国内に侵入すると深刻な被害が想定される豚の熱性伝染病であり、安全で有効性の高いワクチンの開発は喫緊の課題となっている。豚の腎臓に由来するマクロファージ細胞株(IPKM細胞株)は、ASFウイルスに感受性を示し、ウイルスを効率よく増幅できるため、ASF弱毒生ワクチン生産細胞として最も期待されている細胞株の一つである。IPKM細胞株を継代培養する際の増殖培地には牛胎子血清が用いられる。血清中にはウイルスを含む未知の混入物のリスクが懸念されるので、より安全性の高いワクチン生産のためには無血清培地の使用が望まれる。本研究では、特定の血清代替品や種々の添加物の効果を検討し、IPKM細胞株の無血清培地を開発する。通常の接着培養法(継代培養法)の確立に加え、ワクチン生産の効率化に必要となる大量培養系を見据えた浮遊培養法を確立する。
成果の内容・特徴
- 無血清下におけるIPKM細胞の継代培養(図1)。無血清培地は、ヌクレオシド含有αMEMを基礎培地とし、血清代替品としてKnockOut Serum Replacement、主要な添加物としてブタCSF1とCSF2(サイトカイン)、およびPVP(K90高分子ポリマー)を含む。本培地を用いて継代培養されたIPKM細胞(図1写真上)は、血清培地(図1写真下)と同等の接着性を示し、長期の継代培養が可能である(図1グラフ)。
- 無血清下におけるIPKM細胞の浮遊培養(図2)。無血清培地は、カルシウム無添加DMEMを基礎培地とし、上記1.の血清代替品と添加物に加え、ヌクレオシドを添加する。本培地とスピナーフラスコを用いた撹拌培養により凝集体形成が低減し(図2写真)、長期の継代培養が可能である(図2グラフ)。
- 無血清培養したIPKM細胞は、マクロファージの特性を維持することが確認されている。
成果の活用面・留意点
- 本研究で用いたブタCSF1とブタCSF2は、それぞれを過剰発現させたCOS7細胞の培養上清由来のリコンビナントタンパク質であるが、市販品でも効果は同等と考えられる。
- 無血清培地にはヌクレオシドの存在が重要である。そのため、αMEMはヌクレオシド含有タイプを使用し、DMEMを使用する場合は別途ヌクレオシドを添加する。
- スピナーフラスコの撹拌スピードが遅いと凝集体形成が促進され、速いと物理的剪断により細胞が死滅する。したがって、予め適切な撹拌スピードを決定する必要がある。
- 本浮遊培養法を応用することで、バイオリアクターを活用した大量培養が期待される。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(安全な農畜水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業 : 官民・国際連携によるASFワクチン開発の加速化)
- 研究期間 : 2020~2024年度
- 研究担当者 : 原口清輝、竹之内敬人、舛甚賢太郎、鈴木俊一、國保健浩、上西博英
- 発表論文等 : Haraguchi S. et al. (2025) Animals 15:558
doi:10.3390/ani15040558